Jun潤

鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成のJun潤のレビュー・感想・評価

2.9
2022.06.30

実写版『鋼の錬金術師』二部作完結編の2作目にして堂々の完結編。
前作『復讐者スカー』のボリューム的に今作がめちゃめちゃてんこもりになりそうな予感しかせず、よほど上手くやらないと失敗どころの騒ぎでは済まないのではと、最大級の不安を抱えつつ恐る恐る鑑賞です。

スカーとの対決の後、エドはエンヴィー、リンと共にグラトニーの体内に取り込まれた。
アルはグラトニーが“お父様”と呼ぶ人物に会いに行くが、そこにはホーエンハイムそっくりな男がいた。
グラトニーの体内で人体錬成に関するヒントを得たエドは脱出に成功するが、出た直後に“お父様”によってリンは体内にグリードを注入されホムンクルスと化す。
絶体絶命の危機に瀕したエド一行は一旦退却し、スカーの兄が残した研究書に手がかりを見出し、“お父様”の計画の鍵である「国土錬成陣」の存在に気付く。
エドは「国土錬成陣」最後のファクターである北の砦「ブリッグス」へ、アルは「約束の日」について知るためホーエンハイムの元へそれぞれ旅立つ。
ブリッグスにも軍の手が回り「国土錬成陣」は完成、ホーエンハイムから父の真実を聞いたアルは最後にして最初のホムンクルス「プライド」に体を乗っ取られた状態でエドと合流する。
アルの捨て身の作戦とホーエンハイムの絶大な錬金術によってプライドを封じ込めたエド一行は、マスタング大佐たちの協力の元、軍にクーデターを起こしお父様打倒を目指す。
果たしてエド達はお父様の野望を阻止し、自分達の体を取り戻すことはできるのかー。

はぁ〜、予想通り、、逆にここまで予想通りにアカン作品になるとは…。
いやマジで詰め込み過ぎ。
ただでさえ原作の残り分がボリューミーな上に、一作目のオリジナル展開もあり、登場人物も最小限に抑えた結果、若干展開に無理があるし、それにしても敵味方合わせてキャラ数が膨大だから一人一人の登場から結末までが穴だらけだったりと、キャラファンは怒っていいレベル。

さらには原作のテーマとかけ離れているものの、前作『復讐者スカー』はスカーにフィーチャーしていたからこそ1作品としてメッセージ性がありましたが、今作は原作のキャラとストーリーをただただ消化していってるだけの印象がかなり強め…。
特にホムンクルスたちなんかは、お前らそんなにあっさり死ぬんか!?てぐらいの雑処理加減。

ストーリーについても最低限押さえてはいたものの、キャラを優先していたり、全体の流れよりも一場面ごとの再現を重視した結果、描写されていない原作の要素の残滓がチラついたりと、やはり二部作の企画という時点でちょいと無理があった。

序盤から不安全開でしたがやはり最初から最後まで、みんなストーリーもキャラも知ってるしょ!?な前提なのはいただけない。
そもそも「国土錬成陣」やら「本影」やら「逆転の錬成陣」やらの話自体原作の時点で??だったものを、今作で急速にアッサリとゴリCGで押し通すのはさすがに厳しい。
ハガレンが完結済だから単行本の売上にそこまで大きく寄与しようと思っていないことの現れなのかもしれませんが、これが未完の作品だったりこれから売り出そうとしている漫画が原作だったらと思うと、ちょいと作り方は再考の必要がありますね。

前々作、前作と目を見張るものがあったCGについても、今作でも頑張ってはいたものの、気が緩んでいたのか所々に粗が…。
MCUのハルクを雑にした感じのスロウスだったり、人造人間の大群やグラトニーの体内、駅の背景など、CGを使う使わないの判断基準がグダグダで、何をどう魅せたいのか分からない始末。

演技については、前作のレビューではファンタジー世界観の中で存在感を放つキャストに触れたので、今作は二面性の話。
漫画が原作の場合、乗っ取りや容姿のコピー、そっくりさん設定などが付いて回るもの。
そこを埋めるのが演者による一人二役。
今作もその例に漏れず、山田涼介が三役、渡邊圭祐内野聖陽が二役演じていましたが、その演じ分けが、、うーん、素晴らしいともまた違いますが、漫画実写化の新たな可能性を切り拓いていました。
渡辺圭祐はリンの飄々とした感じもグリードの狡猾で奔放とした感じも十分演じ分けていましたし、そのハッキリした顔立ちからは意外なほどどっちの役もハマってしまう。
これは今後どんな役を演じてもイメージが固まらず、どんな役にもなれる、というより取り込める魅力が彼にはありますね。
そして内野聖陽は安定感が十分にありながら、ダメ親父な雰囲気の中に芯があって頼れる強い父親の姿を演じながら、得体の知れない“お父様”のズル賢く知略を張り巡らせ、人間を見下し人間を越えようとするまさに人外な姿を、体と表情の演技だけでなく声でも十二分に演じていました。
そして山田涼介、最近なにかと悪い意味で注目を集め、なかなか主演作に恵まれないですし、今作でも三役とは言ったものの若い頃のホーエンハイムは碌に演じられず、青年姿の“お父様”も原作の時点でちょっと小物感はあるし、素の表情で漫画の表情を再現しないといけないから、顔面崩壊というか顔芸連発というか…。
どなたかいい脚本を彼に……。

さて、2017年の一作目公開から好評よりも悪評を集め、今回の二部作もファン内外から疑問の声が噴出していましたが、原作の途中までだけを実写化したり、一作で全部描いたりする漫画実写化が頻出する中で、完成度の高低や企画の成否に関わらず、足掛け5年、三部作をかけて一コンテンツを映像化しきったことには改めて拍手👏
Jun潤

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