近本光司

夜を走るの近本光司のレビュー・感想・評価

夜を走る(2021年製作の映画)
3.5
映画の最後のショットはほんとうに難しい。もうひとりの自分が父親として子どもと戯れる姿を見て、ベランダで静かに涙する場面で終わってもよかったし(『ペパーミント・キャンディー』)、宗教団体の壁に残る銃痕のショットで終えるのも洒落が効いている。しかしこの映画は冒頭とおなじ洗車のシーンをもってきて、最後に主題に回帰したようでいながら、さらにはエンドロールで家族の何気ない日常のフッテージを配している。見たくない、ああ見たくない!
 さまざまな筋書きを一本の映画に取り入れようと試みた映画の終わりかたといえば相応しいのかもしれないが、この情報過多な一連の畳み方に、作家の気負いのようなものを感じすぎてしまっていくらか興が醒めた。ひょっとするとひとつのラスト・シーンにすべてを結実させることができていたとしたら、傑作と呼んでも差し支えなかったかもしれない。松重豊のドスが効いていてよかった。