近本光司

戦場のメリークリスマスの近本光司のレビュー・感想・評価

戦場のメリークリスマス(1983年製作の映画)
4.0
パスカル=アレックス・ヴァンサンは上映前の作品紹介を終えてから、これは大島渚映画のなかでも失敗作で、映画よりも音楽のほうが優れている稀有な例だよねえ、と言った。確かにこれは坂本龍一の名を世界に知らせしめた決定的な作品で、わたしたちはこの映画について考えるとき、だれしもまずはあのメロディのことを思い浮かべると思う。ひとびとのあいだでは映画よりも音楽の記憶が色濃く残る。
 久し振りに見て思ったのは、しばしば坂本龍一とデビッド・ボウイのことばかりが語られがちだが、これはむしろトム・コンティとたけしの友情をめぐる物語だったということだ(英題はハラ軍曹がローレンスに向かってときを隔てて二度ほど発声する「Merry Christmas, Mr. Lawrence」で、はじめから分かりきったことではあるのだが)。日本が敗戦し、翌日に処刑を控えたハラ軍曹のもとにローレンスが訪ねていくラストシーンがとにかくすばらしい。たった四年で流暢に英語が話せるようになっているたけし(坂本龍一よりはるかに聞き取りやすい!)との会話のくだりで、突然印象的な俯瞰のショットに切り替わる。声を聞かせるだけならカメラは背後に回ればよいはずなのに(そのほうが感動的だったかも)、なぜか天井から見下ろすショットに。エンドロールのテーマを聞きながら、あの強烈な違和感について考えていた。