滝井椎野

さかなのこの滝井椎野のレビュー・感想・評価

さかなのこ(2022年製作の映画)
4.3
正直あまり期待せずに鑑賞したのだが、これがどうしてかなりの傑作。これをミニシアターに埋もれさせずに結構大きな規模で公開したのは英断だったと思う。

これは結局、さかなクンさんの半生を綴った伝記ものということで良いのだろうか? であるなら、さかなクンを近所の不審者としてキャスティングした制作陣の正気を疑う(いい意味で)。この不審者のキャラクターが実に面白く、もはや不審者を通り越して『ギョギョおじさん』という怪異として子どもたちに語られている。なんでも、出会ってしまったら親指を隠して被っている帽子を褒めなければ攫われて人体解剖されて魚人間に改造されてしまうらしい。この役を受けたさかなクンさんの心の広さと茶目っ気に敬服した。

なかなか語るところの多い本作だが、一番の見所はやはり魅力的なキャラクターだろう。
能年玲奈演じるミー坊はじめ、その家族に幼馴染のヒヨとモモコ、総長達ヤンキーの面々と、癖の強いながらも皆のんびり暖かく、観ているこちらの頬がつい緩んでしまうようなキャラクターばかり。マイペースで周りを巻き込んでいくミー坊と、巻き込まれながらも個性を否定せずに何だかんだ付き合ってくれる他のキャラクター達の、お互い救い救われる関係性は、みていて微笑ましい。

面白いのが、割と滅茶苦茶なミー坊に対して周りの人間がしっかりとした正論やアドバイスしか言わないところ。それぞれの人柄の良さが感じられて良かった。おまけに、困っているミー坊にしっかりと手を差し伸べてくれる辺り、善人ばかりである。

良いキャラクターに優しい空気感……全編通して、観ていて優しい気持ちになれる作品で良かった。劇場内の雰囲気も実に良く、結構多くの場面で笑いが起こり、一体感を感じられた。
滝井椎野

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