金宮さん

さかなのこの金宮さんのレビュー・感想・評価

さかなのこ(2022年製作の映画)
4.0
「好き」を貫くことの偉大さは、周囲の人生をも変える。

やはり、のんさんは画面に映っているというだけで引力がある。えもいわれぬ魅力。それ以外にも、随所に品よく入る笑いの要素や、さかなクンってこんな半生だったんだーという興味から、問題なく観れるなあという感覚で時間は過ぎていきます。

ところが物語も終盤に差し迫ったところ。総長&カミソリモミと再会し、カミソリモミがミー坊のイカ料理を食べて寿司屋になったというエピソードでハッとしました。ある魅力的な純粋さが、周囲の人々をほんの少しだけ良い方向に導くストーリー。『横道世之介』や『のぼる小寺さん』と同じ系統だということに気づきました。等身大だけど暖かみのあるこれ系の話はほっこりとした気持ちになれるので大好物です。

絶対に好きであり続ける何かがある。つまりどんな状況であっても肯定するというやり方を知っている。それは人間関係に反映することが可能で、ミー坊はいつだって相手を肯定していたように感じました。

ミー坊のような極端な生き方を選択する必要はないけども「ずーっと好きでいられる何かを見つけてみよう」は我が子にも伝えたい素敵なメッセージ。沖田修一監督の作品は「肯定」の成分であふれていて大好きです。

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ミー坊の対比として描かれるヒヨというキャラクター。好きなものは見つかっていないけど、努力もできるし、成功もしてるし、別にむなしくもない。でもミー坊が否定されるとキレない程度にイラッとする。見守るというほどでもない距離感で優しくミー坊の隣りに居続ける。

凡人の我々が投影するキャラクターとして素晴らしい温度感。ラジカルなキャラ造形をしない監督は信用できると何度でも言いたい。

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中盤のヤンキーどうしのへっぽこバトルのシークエンスが大好きです。柳楽優弥、岡山天音、磯村勇斗、前原滉が揃っておきながらあんなにも緊張感がないのが最高。

狂犬の登場シーンの会話は何が面白いのかわからないんですけど、芸達者達の気の抜けたトーンに、なぜか吹き出してしまいます。そもそも、狂犬ってなんだよというのもあり。

「おい!狂犬」
「あ、ヒヨ。覚えてないの?一緒にお習字通ったでしょ」
「通ったの?」
「通ってないっす。」
「お前狂犬の知り合いなの?」
「狂犬?ちがうよ。ヒヨだよ。」
「ヒヨなのかよ」

うーん。文字にしてもちっとも伝わらない。「通ったの?」とか「知り合いなの?」「ヒヨなのかよ」とかのトーンがヤンキー設定忘れたの?ってくらいミー坊の言ってることを素直に受け入れていて、そこがたまらなく面白いのです。完全に役者の力が出てましたね。

ちなみに、岡山天音vs前原滉は『笑いのカイブツ』を思い出しますが「好きを貫く」という意味で実はテーマは似てたりする。あっちはリアルな失敗談で、こっちはファンタジックな成功譚。どちらも必要だと思う。

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劇伴はパスカルズ。割と引っ張りだこですね。おとぎ話感ファンタジックな雰囲気づくりのMVP。『凪のお暇』『川っぺりムコリッタ』とかその辺の感じ。
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