くりふ

だって私は女なののくりふのレビュー・感想・評価

だって私は女なの(2021年製作の映画)
4.0
【ポーリッシュ・モンローの憂鬱】

劇場公開された何かと勘違いしていたが、これは配信オンリーなんですね。Netflixで少し前に始まり、気になってはいたが後回しにしていた。

…ところが、見たらばなかなかの掘り出しモノ!

時代に逆行するような邦題ですが、曲名でもある原題は『Bo we mnie jest seks』。作中歌われる歌詞の字幕からだと“太陽のように熱いセックス”というような意味らしい。

いや、これを、昼間っからTVの生放送で堂々と歌っていたって、スゴイぞポーランド!

60年代、かの国のセックスシンボルであったTVスター、カリーナ・イェドルシクに、実際に起きたセクハラ事件を追う、意表を突くミュージカル付き、苦いポップ風味の物語。

日本で知られていないスターについて、本国人気を前提で展開されると、それが単体作品では弱点にもなってしまいますね。

それでも、私は面白かった。根っこに普遍性を抑えてあったから。これはこの時代の、ポーランド女性の生きづらさ。さらに、性的魅力に溢れ奔放に生きたい人気者にとっては、こうメンドクサイ…という“女はつらいよ”を描いているんですね。監督もやっぱり女性でした。

舞台が映画界でなくTVって、まず面白い。60年代はかの国もTVの時代か。当時は国営放送だと思いますが、そこで現場の実権を握る男に迫られて、カリーナは断固、拒否するが…。

彼女は四面楚歌となってゆくが、どうしようもできない。社会主義国というお国柄もあろうし、女性だから、でもあるでしょう。周囲の身近な男たちも、何もしてくれない。

しかし、事件が起きる前から、カリーナは自分の境遇…女としての境遇がわかっていて、ずっとどこかでイライラしているんですね。この感情がリアルで共感する。本作の要。

彼女は歌にも演技にも、大して執着がなさそう。自分が本音で生きられる方を望んでおり、芸の道に偏って自滅なんかするより、ずっと正常でありましょう。

作家の夫がいて、さらに年下の兄ちゃん歌手が愛人で、夫公認でポリアモリーに、一緒に住んでいる。が、そうやって自由に生きているつもりでも、不自由の水かさが増してゆく。

ダンナの無自覚な男尊女卑もリアル。で、彼女はそれを、どうにもできない。

が、大した物語展開はないのに、ヒロインに寄り添えるからずっと飽きずに見ていたが、オチがねえ…。

カリーナにある転機がやってきますが、どれほどの“国民的”人気だったか、わからないからオチが効いてこない。何だか最後がタナボタで終わっちゃう唐突感があるのです。

誰が見てもわかるように、彼女の人気度を作中で解読しておいて欲しかったですね。

とはいえ、カリーナを演じるマリア・デブスカの魅力が炸裂していて、それを見ているだけで楽しかった。脱ぐのにも躊躇しないのが素敵で、特におっぱいがすばらしい!(きっぱり)

近未来とも思えてしまう、ロケも面白い。ワルシャワだと思いますが。エンキ・ビラルのバンド・デシネに入り込むような異郷感があります。色は煤けたキャンディカラーみたいな。

時に挟まれる“不条理ミュージカル”がまた、効いていますねえ!

<2022.6.12記>
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