ねまる

ロストケアのねまるのレビュー・感想・評価

ロストケア(2023年製作の映画)
4.2
鑑賞後の余韻が大きく、観ている最中も、鑑賞後もずっと色んなことを考えさせられる。
それは素晴らしい作品だからだと思う。
誰の身にでも経験する可能性のある、現在進行形で経験している方も多い親の介護。
当事者から見ると、介護される立場の人から見ると、違う目線だと見え方も違うのだろうか。

それを表向きでは、被告人と検事として、サスペンスフルに描き、
裏向きでは、社会への問題提起として描き、
内向きでは、個人の物語として描いている。

テーマは深刻で、哀しくなる場面も多いが、
映画としては余計な演出を削ぎ落とし、役者の芝居にフォーカスをしていたため、
長時間取調室での、松山ケンイチと長澤まさみの2人の会話のみのシーンが続いても、その迫力に圧倒され目を逸らすことが一切出来なかった。

鏡や反射を多様した演出も美しくて、
2人を対峙させることで、どちらがどちらの立場にいてもおかしくなかった幻影のようにも見える。

柄本明の達人過ぎる演技が、このやり場のない感情を作っているんだろう。
そして、松山ケンイチの演技が被告人でありながら、感情を受ける側の立場にもなる静の感情ですら、斯波という人間を観客から遠い理解できない他人にさせなかったのだと思う。素晴らしかった。



もう少し語りたいので続きはネタバレに。
ネタバレ気をつけてね。



斯波はただ、自分がしたことを正しいと思い込みたかった。そうするには、過去の自分のような人たちを救ってあげるという信念を貫くしかなかったんだろうなと気付いた時の切なさ。

「この社会には穴が開いている。一度でも穴に落ちたら、簡単には抜け出せないようになっているんだ」
「死による救いなどまやかしだ、命を諦めたんだ。」
「安全地帯から綺麗事を並べる人間が、穴の底を這う人間を苦しめる。」

取り調べ室でのシーンは感情を露わにする浅倉より淡々と語る斯波に分があるように見える。
でも、どんなに真っ当らしいことを並べても、信者でもない聖書の言葉を引っ張ってきても、
ラストシーンでは徹底的に、命を諦めてしまったんだと分かる。

彼もこの社会にある穴の被害者なんだろう。
ねまる

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