Jun潤

東京2020オリンピック SIDE:BのJun潤のレビュー・感想・評価

東京2020オリンピック SIDE:B(2022年製作の映画)
3.6
2022.06.24

河瀬直美監督作品。
色々とあった東京2020オリンピック。
テレビで放送されていたあの大会において、光と影では何が起きていたのか、様々な人の目から多角的に見ることが大事だと思うので今回鑑賞です。

コロナ禍の影響により、1年間の開催延期、無観客開催という異例尽くめとなった東京2020オリンピック。
公式記録映画としても初となる二部作の内『SIDE:B』では、オリンピックを影で支えた人たちにフォーカスが当たる。

2013年に開催が決定した東京オリンピック。
7年かけて準備が進められてきたが、様々な問題や批判が噴出、さらにはコロナ禍による開催延期と無観客開催。
開催に向けての動きを止めない人々や、アスリートではないけれど自身の想いをかけて目の前の仕事に従事する人々を描く。

「森とバッハとやりがい搾取」
予告編の感じからコロナ感染予防と無観客開催というやること尽くめの中、システマテックに動く人々が描かれると思っていたので、若干のギャップはあったものの、この3つの視点としてはなかなか見応えがある描き方がされていたと思います。

まずは森喜朗競技大会組織委員会会長。
オリンピック当時のニュースやわかりやすく目を引くスキャンダルしか見ていなかったので、実際どんな人物なのか、改めてというか初めて今作で知れた気がします。
言動だけはそれらしいことを並べておいて、実際に執務や業務として動いていた印象はほとんどなく、権威だけを身に纏ったただのおじいさんな印象が相変わらず強めです。
そして女性蔑視の発言から一転、言い訳ばかりを並べて自分の発言を省みることなくただそれらしい弁を述べてさっさと退任。
そのことについて、つい今しがた起きたスキャンダルでなく、森喜朗がオリンピック開催のために何をしてきたのか、これまでに何を成し遂げてきたのか、ちゃんと内面や背景を見つめなきゃなのかな、と思わせてからのいわゆるムラ社会的な現代の日本を改めて見直し、今後100年の日本が国際社会を生き抜くための良い機会になったと考えさせるような内容のインタビューを観ると、歴史の礎になった哀れなご老人だったのかなと、思えてしまいますね。

次にトーマス・バッハ国際オリンピック委員会会長。
名前しか聞いたことがないようなレベルだったので、元フェンシング選手だったという経歴に驚き。
甲斐甲斐しく開催国である日本に訪れ、少女と会話をする様子やマイク越しでしか批判できない人とも会話をしようとする姿勢で、ああちゃんとした人なんだなと思わせてからの、コロナ禍においてのオリンピック開催について批判が集まると態度が一変、というか本性が表出して周囲に責任転嫁してしまうなどの情けなさ。

森会長、バッハ会長ともに、序盤で尊大な態度をとっていて、それらしく撮られていたからこそ、このギャップにはドキュメンタリーらしくない、いえ、だからこその、やり場のない怒りや虚しさを感じました。

そしてやりがい搾取についてはもう日本の悪い癖全開でしょうね。
実際本人にどのような想いがあったのか、一人一人から詳細に聞いて発信することは無理な話で、今作で描かれたように既に決まっているものに向かって目の前の仕事をこなしていく人々の姿を見ることでしか推し測れない。
果たしてそこに熱量はあったのか、7年準備してきたものの成果、それを突然無理矢理に方向転換しなければならない理不尽さ。
どんどん重なっていくオリンピック批判に対してどのような想いを感じていたのか。
実際に開催に向けて動いていた人、直接の関係はないけどオリンピックに願いを託していた人、開催の可不可に関わらず職務を全うする人。
その先にオリンピックの成功、救われる人の存在、平和な未来があると信じてー。
果たしてその行動に見合うだけの対価は得れたのか、キャリアとして、気持ちとして、形として、そこが一番大事な気がします。

オリンピックの裏側にフィーチャーしているに相応しく、様々な形でオリンピックと関わりがある人を描いていました。
主にはアスリートを支えるコーチたちと、被災地や戦争被害を受けた土地から、平和や復興への願いを祈った人々。
試合本番での失敗やコロナ禍、それ以外にも悲劇的に起きてしまった偶然の事故など、熱い想いを持つアスリートに応え、その姿に願いをかけるコーチたちの姿。
アスリートが成功しても失敗しても日の目を浴びない彼らも、陰では泣いたり喜んだり。
『SIDE:A』があったからこそ輝く違うヒーローの姿がありました。

そしてもう、被災地の想いよ…。
元々復興五輪として位置付けられた今大会において、復興の現実や未来、現代のコロナ禍との板挟みになっている被災地の方々の気持ちは、そもそもあるのかないのか、あるとしたらどんなものなのか、それはそれでまた一つ作品が必要になりそうです。
広島を訪れたバッハに対してオリンピック批判をする人々と、戦時中に唯一本土上陸が起きた沖縄から、大会の開催が土地を知ってもらう一助となることを願う人々との対比はまた…どっちが正しいのかわからなくなりますね。
そこに確かな気持ちが少なくてもあるのであれば。

あとはもう『SIDE:A』同様に子供の描き方がすごく良い、良すぎて逆にいやらしい。
『SIDE:A』で描かれたテレビで活躍したり親の姿を見ていたりと希望や夢を見出す姿とはまた違い、裏側で起きている大人たちの醜く泥臭く意地汚いやりとりなど露知らず、純粋な表情を見せる子供たち。
この子らもいつか汚い世界を見てしまうのか、それとも希望を持って強く生きていってくれるのか。

子供たちの未来と共に、未だ明確な終わりの見えないコロナ禍と、その中で行われた一年延期と無観客開催が重なったオリンピック、世界の注目を集める中で暴かれた日本の本当の姿。
今回の一件を悲劇とするのか、いつか喜劇として語るのか、いい方向への転換点となるのか。
ラストで描写された100年後の日本のように、アスリートの視点だけでなく、歴史や世界の大きな流れに翻弄される人々やそんな中でも目の前の仕事をこなしていく人々の姿、『2021年の日本』を後世に語り継いでいく、誰がどのように遺していくのか、その一つの形を今回の二部作で河瀬直美監督が描いてくれたのかなと思います。

演出統括だったのに外された挙句アドバイザーに着地した野村萬斎の冷えた表情たまんねェ〜
Jun潤

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