netfilms

東京2020オリンピック SIDE:Bのnetfilmsのレビュー・感想・評価

東京2020オリンピック SIDE:B(2022年製作の映画)
2.5
 乗りかかった船だからまたしても1900円支払い、渋々観て来た。国民の誰もが期待していない、僅か1年後の開催で本当に大丈夫なのかという国民の疑問や不安にはほとんど答えず、兎に角決まったものはそれがルールと言わんばかりに「やるしかない」の一点張りの武藤敏郎事務総長の独断、それを見守る各理事の苦み走った表情を庵野秀明の新エヴァばりの緊張感ある構図とリズミカルな編集、そして黒背景に白文字でニュっと現わす。河瀬直美の恥も外聞もない無邪気なオマージュに苦笑しながらも、前回よりは興味深く見た。もともとTYPE-BはAよりもオリンピックの内幕にフォーカスした作品だということはわかっていたので、アスリートの活躍は殆ど見られないことは覚悟していたのだが、それでもバドミントンの桃田賢斗選手の世界ランキング1位中での突然の事故や、水泳の瀬戸大也選手のゲス不倫からの惨敗など、スポーツの最深部ではなく、あくまでワイドショーや週刊誌的な関心に留まるものの、一応のオリンピックの結果も取り上げている。中でも陸上男子400mリレーのバトン失敗の悪夢は折り目正しく何度も繰り返され、しかも観客席にいる陸上連盟の関係者が頭を抱える様子とモンタージュされる。このような編集上の判断を是とするか非とするかは各人が考えるところだが、私は率直に言って悪意あるなぁと思ったし、私ならあえて事象だけに留め、そこにわざわざ関係者の様子を挟もうとは考えない。これは公式記録映画であり、彼女自身の発言の場ではないからだ。

 編集からこのような恣意的な判断が読み取れる箇所は他にも複数ある。TYPE-Aの森喜朗会長の脂ぎった表情に浮かぶ疲労から察せられたように、今回は彼の女性蔑視発言からやがて橋本聖子議員が代わってポストに就き、12人の女性理事を新たに任命するまでを克明に描くのだが、そこに丸川珠代議員の涙などを巧みに盛り込む。菅義偉首相と小池百合子都知事のどこかギクシャクとしたやりとりや、橋本聖子議員の「生まれた時からオリンピックに出るのは当たり前だった」発言をやはり編集で巧みに盛り込んでいる。あとは野村萬斎氏や振付師で演出家のMIKIKO氏の謎の解任騒動もあえてどちら側に立っているのかは明確にせずに、オリンピックが生み出した膿として淡々と描写している(小山田圭吾氏の解任や佐々木氏のデブ発言には一切の言及なし)。その意味ではTYPE-Aよりは幾分リベラルで冷静な判断が為されているとも取れなくもない。代わりに河瀬直美の刻印が見えたのは子供たちを粒子の粗い映像でクローズ・アップしたフッテージを要所に配置した点に尽きるのだが、観ていて明確な効果はあまり感じない。一番疑問だったのは、前回も1900円払った我々に何らかのサービスがあっても良い。例えば前回の半券を持っていけば半額で観られるとか、或いはパンフレット無料配布とかそういう企業努力は一切なしなのか?無い袖は振れません、観覧はあくまで自己責任でという手厚さとは真逆の現代日本の厚かましさが何か前後編全編に漂い、終始息苦しかった。

 テレビで観たオリンピックってもっと楽しかったのだがあれは果たして幻だったのだろうか?今回も初日に観たが、観客は私も含めて4人だった。こんなことなら何も映画館にこだわらず、YOUTUBEで無料で公開した方がよほど公式映画の体裁は保たれ、効果があったのではと思う。ことごとく適任者を外し続けるこの国のシステムはまず河瀬直美の監督任命がケチのつけはじめで、2本に分割し上映、全国の映画館で拡大上映という3つの決定が全て失敗してジ・エンドというのが、いやはやなんとも残念でならない。少なくとも河瀬直美以上の適任者はいたでしょうと。
netfilms

netfilms