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マルセル 靴をはいた小さな貝のSPNminacoのレビュー・感想・評価

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可愛らしくていじらしいサヴァイバル・ライフ。小さき淋しきものたちの歌。
カメラを介した親密な関係や、無常さや寂寥感を色濃く感じさせる前半が、『アフターサン』にそっくりだった。今年はこういうの流行ってるのかな…。でもジェニー・スレイトとイザベラ・ロッセリーニに泣かされてしまった。ジェニー・スレイトの声と知ってて観ると尚更かわゆみ増。
マルセルとおばあちゃん、撮影者ディーンと犬は、どちらも取り残されたサヴァイバリストだ。お互いに抱えた喪失感を観察し合ってるけど、それを埋めることはできない。今在るものを大事に工夫して生き延びるしかない。でもどこかで見てくれる、気に掛けてくれる存在が必要なんだ。マルセルはパフォーマー、ディーンはその伴奏者。
映画はまさに、「パーティで自分だけ別の部屋に行って休むとき、大勢がいる気配で安心できる」その感覚だった。寂しいもの同士の優しく繊細な視線のやり取り、インタビュウのやり取り、その外側のどこかで常に世界の気配がある。小さな足と大きな目の先に誰かがいて、窓の向こうに、家の外側に街がある。
喧嘩別れした元住人の家は他人が共有するAirbnbで、つまり一時滞在者を待つ開かれた場所。ドキュメンタリー動画がその窓を開け、人々が訪れ、やがてマルセルも待つだけでなく訪ねていく。時には騒々しいけど、それもいい。みんなの気配が愛おしい。
いやあ、あんな可愛いゲロは他にないし、目の淵(貝殻の淵)に溜まる涙もすごいし、キーボードの上にいるおばあちゃんzzzzzzzzzzzzz……って入力しちゃってるのが堪らなかった。おばあちゃんの弱り方がまた他にないくらいリアルで切ない…貝なのに!
マルセルのファミリーが親族だけでなくコミュニティであることが好き。貝じゃなくていいんだ、ってちょっと意表を突かれた。ていうか、靴履いてるけど足は見せない(脱げない)ので、むしろ靴が本体かもしれん。
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