Kuuta

夜霧の恋⼈たち 4Kデジタルリマスター版のKuutaのレビュー・感想・評価

4.2
「大人は判ってくれない」のジャン=ピエール・レオ演じるドワネルないし、トリュフォーの分身が、子供と呼ぶには良い年になってきて仕事を始める。相変わらず好き勝手に画面内を暴れ回るものの、周囲の大人の姿に少しだけ成長していく…のか?

コロコロと仕事を変え、探偵として「誰か」になりすます展開は、役者や映画のあり方ともメタ的に重なってくる。

邦題とは印象が異なり、コメディとサスペンスの間を、飄々としたドワネルが駆け抜けていく。これといったストーリーはないが、不倫現場に乗り込んだ夫が、探偵から「花瓶を投げてやれ」とけしかけられるも、妻への愛なのか花だけを投げるシーンなど、印象的な描写は数多い。クビになる場面を直接示さないまま次の仕事を始めている、といった省略も心地よかった。

自伝性の強かった「大人は判ってくれない」や「アントワーヌとコレット」よりも、映画の虚構を積極的に取り入れている印象だ。鏡と向き合い、気になる2人の女性の名前、そして自分の名前を息が切れるまで呟く。セリフに規定された檻の中で煩悶している様子が分かる。

一方、カフェから出て探偵に誘われるまでの長回しでは、一旦ガラスの外に出たドワネルが自らフレームインする。会話の中身は聞こえない。

音(パロールの現前性)の呪縛から解放され、アクションや手紙の力で人生を歩み始めるドワネル。探偵の仕事は、人間を抽象的に語られた愛ではなく、解釈に開けた文字、エクリチュールに落とし込み、現実を「解体」する作業である(受け入れられずに激昂する依頼人もいる)。そうした彼の変化は、ラストのプロポーズで見事に結実する。

恋愛の行方も、物語もどこに行ってもおかしくない。そんなこの映画を終わらせる、上滑りしたセリフへの訣別も痛快だった。85点。
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