むさじー

EO イーオーのむさじーのレビュー・感想・評価

EO イーオー(2022年製作の映画)
3.6
<人間と動物と自然の有りようを説く寓話>

サーカス団で荷車を引き芸をして幸せに暮らしていたロバのEOは、動物愛護の名のもとにサーカス団を追われ放浪の旅を余儀なくされる。そして数奇な運命をたどる旅で、人間の身勝手や暴力性、世の中の不条理を体験する。
主人公のロバの眼が印象的だが、その視点で動物を迫害する人間社会と、搾取するだけの人間のエゴを描いていく。描くのはロバの視点というよりもっと俯瞰的で、人間の生態と動物や自然の有りようを少し離れた所から観察しているかのようだ。
最大の難問は、人間の肉食生活と動物愛護はどうしても矛盾してしまうこと。特にロバというのは微妙な存在だ。愛玩動物ではないが食肉用でもなく、野生で自立する力もない。昔は農耕用だったのだろうが、今はその需要もほとんどない。ロバはポーランドでは愛護の対象で、イタリアではサラミになるというのが興味深いし、許される殺生と許されない殺生の線引きは難しい。
また、自然エネルギーである風力発電も動物には脅威で功罪相半ばし、人間の物欲が野生動物の密猟を招き迫害している現状を憂える。
そんな風に人間のエゴを描き、動物愛護派や自然エネルギーに対してシニカルな視線を投げかける。常識や社会通念に囚われない視点で、世の中の矛盾と方向性を見つめ直すべき、そんなメッセージと受け止めた。正解がないから一層考えさせられる。
映像は、四足歩行ロボやドローンを使い色彩も斬新なもので惹き込まれる。ただ、挿入される人間のドラマが中途半端で、特に司祭と義母による禁断の恋の話はその意図するところが見えなかった。
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