SANKOU

EO イーオーのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

EO イーオー(2022年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

ロバは馬に比べれば優雅さに欠けるし、鳴き声も不細工だが、常に涙目のような何ともいえない哀愁漂う姿に思わず感情移入してしまった。
これはロバの目線から見た人間の世界の物語。
ポーランドのサーカス団で心優しい相棒のカサンドラと共に巡業の旅をしていたロバのEO。
しかしサーカス団は破産し、動物愛護団体に見守られる中、EOはカサンドラと引き離され受け入れ先の牧場へと連れていかれる。
まるで本当に動物たちがシナリオに沿って演技をしているようで、ほとんどが動物目線の台詞のない映画なのに、ついつい目が離せなくなってしまう。
よそ者のEOを優雅な芦毛の馬や、ロバたちが冷たく威嚇する。
一度だけカサンドラがEOに会いに来るシーンがあるが、新たな生活を手に入れた彼女はすぐにEOのもとを離れてしまう。
彼女を追ってEOは脱走する決意をする。
ここからEOの孤独であてのない旅が始まる。
熱狂的なサッカーの試合に立ち会い、何故か勝利の貢献者にされてしまったEOは、勝利の祝賀会に引っ張り出される。
しかし負けた相手チームの過激なファンが腹いせのために祝賀会に乗り込み、暴れまわった挙げ句EOに暴行を働く。
瀕死状態から回復したEOだが、害獣駆除の手伝いをさせられ、そこから逃げ出した先も屠殺場へと向かう運搬車の中だった。
しかし運転手が暴漢に殺されると、今度は訳ありの若手牧師ヴィトーが彼を引き取る。
EOにとってこれまでにも安住の地はありそうだったが、彼の頭に甦るのはカサンドラとの美しい日々。
彼女の記憶が甦る度にEOは脱走する。
そして彼が辿り着いた場所とは…。
馬は競走馬として華々しい活躍をすれば穏やかな余生を送ることが出来るが、ロバは果たしてどうなのだろう。
ヴィトーがロバのサラミを食べたことがあるとEOに話すシーンがあるが、ロバもいつかは食用にされる運命にあるのだろう。
色々と家畜の恩恵を受けている身にとっては複雑な気持ちにさせられるが、やはり屠殺場に向かう動物たちを見ると胸が苦しくなる。
動物の目線で描かれるからこそ人間の身勝手さや醜悪さが際立つようだった。
ところどころで赤く光る画面がとても効果的だった。
人は生きていくために動物を食べなければいけないが、いつか家畜を食べない世の中が訪れるのだろうかと考えてしまった。
SANKOU

SANKOU