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別れる決心のsomaddesignのレビュー・感想・評価

別れる決心(2022年製作の映画)
5.0
不眠症に悩む刑事ヘジュン。ある日、男性が山頂から転落死する事故が起きるが、殺人の可能性を踏まえ被害者の妻ソレを疑うが、彼女にはアリバイがあった。取り調べを進めるうちに、いつしかヘジュンはソレに惹かれ……。

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大好きなパク・チャヌク監督の最新作とあれば、親を質に入れてでも見に行かねば。

事前情報を極力入れずに見に行ったので、タイトルからてっきりエログロな夫婦の離婚劇かと思いきや、エロもグロもない濃厚な大人の恋愛映画だった。超意外!

設定だけなら刑事と怪しい美女の古典的なファムファタルもの(氷の微笑とか薄氷の殺人とか)。パク・チャヌク監督のヒッチコック好きのせいか、映画の構造は「めまい」そっくり。前後半の二部構成だし、実在しない理想の女性に振り回される男女のラブとサスペンスって意味でも近しいものを感じた。

詩的で説明の少ない、なんなら最も映画的な場面を削ってしまう。過去作と比べても極端に感情表現の少ない登場人物たちで、腹の底が見えない。何考えてるか明示されないけど、繊細な心の動きが描写され、透けて見えるのスゲエ。

山で始まり海で終わる物語。
ソレが愛ゆえに夫たちに侵食される姿が、海の生き物が陸に上がって干からびてくようでもあって「スプラッシュ」ぽくもある。ラブトラジコメディで、ある意味悲劇的な結末もなんとなく似てるような?
シンボリックなシーンや、暗喩的なシーン…二部構成で対構造や鏡像関係の要素がいっぱい。
縦関係の絵づくりもいっぱい。シンプルな構造と物語の割に、読み解く情報量が多すぎて頭が疲れた。

以下、気になったトコをいくつか……
ソレの壁紙が波模様
読み聞かせの本が山海経。絶対読み聞かせるような本じゃない。
「マルティンベック」シリーズに着想を得たとあって、随所にオマージュを散らしてる。ヘジュンの机の上に同書があって、彼の愛読書なのかマルティンベックに自身を重ねてるのか。


見終わってみれば、自分の浅い人生経験じゃ理解しきれない部分も多くて、飛び飛びの記憶を辿る白昼夢みたいな映画体験だった。見終わったそばからまた見たい。見るたびに発見の多い作品だと思う。
監督はヒッチコック大好きなので、無意識に「めまい」に似ちゃってる。二部構成だし、美女の幻想に振り回される男と、自身が作り上げた幻に翻弄される女って構図も似てる。ファムファタルモノがそもそも好きなんだろうな。


余談)
すっぽんの口はまじ危ないので、素手で扱うのは要注意。あんなコミカルなことでは済まないと思う。


17本目
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