すずき

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーのすずきのレビュー・感想・評価

3.8
近未来、人類の身体は退化し、肉体の痛覚を失った人類は荒廃しつつあった。
主人公ソールは「加速進化症候群」を患う男。
その病は、本来生物が何世代もかけて行う臓器の進化が、ソールの身体の中に現れるというもの。
ソールは身体の中に産まれた「未知の臓器」を摘出手術する様を、パフォーマンスアートとして公開している。
当局は人類が進化し、やがて別の種になる事を恐れ、彼らのような人間を監視していた。
そんなある日、ソールはラングと言う男から、自分の息子の死体の解剖をアートとして世界に公開して欲しい、と持ちかけられる…

変態映画界の巨匠、クローネンバーグ監督の、久々の新作!
そして主演はいつものヴィゴ・モーテンセン!
しばらくバイオレンス・人間ドラマ的な作品が多かった監督だけど、今作は原点に立ち戻ったかのような、テクノロジーと人体の破壊・変貌を描いたSF。
それもそのはず、監督が書いた脚本は、20年前に既に完成されていたもの。
なお、監督は同タイトルの作品を1970年に撮っているが、未来の犯罪を描いた事以外は本作とは関係はない。

本作のテーマや描かれる内容のメタファーは、正直よくわからない。
ひょっとしたら小難しい意味合いは無くて、監督が夢想した未来世界を描いたエンタメ映画なのかもしれない。
まあ兎に角、グロくて訳わかんなくて面白くて尖ってるから、未見の人は是非見てほしい。

未来の犯罪とは、凶器が光線銃で犯人はサイボーグ、主人公の武器はサイコガンで助手はアンドロイド…、と従来の犯罪ミステリー映画の小道具をSFにしただけではない。
クローネンバーグ監督は人類が変化していく中で、「何が新たな犯罪になるのか」を考え、その倫理観や文化の変貌の歴史を丁寧に組み上げた。
全く新しい犯罪やトリックを成り立たせる為に、まずその理論から構築する、というやり方は、私の好きなミステリー小説の「ドグラ・マグラ」とちょっと似ている、と思った。

人類の進化する事を旧人類は恐れる、という設定は案外SF作品にある構図かも?ガンダムのニュータイプとか。

¥1200のパンフレットも購入。
開胸手術のような開き方の装丁は美しく、内容も充実。
監督、演者、スタッフのインタビューから、クローネンバーグ全作紹介、劇中の生物的マシンの設定資料画も掲載されていて、最高のパンフレットでした。
劇中写真が9割のクソパンフは見習って下さい!