耶馬英彦

ゴールデンカムイの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

ゴールデンカムイ(2024年製作の映画)
4.0
「山﨑賢人くんがカッコよすぎて、少し泣いちゃった」と、終映後に女性客が話していた。カッコよすぎて泣く?それは謎だと思いつつ、そういえば、昔ビートルズが来日したときに、コンサートで失神する女性がかなりいたというニュースを見たのを思い出した。今も昔も、女心は摩訶不思議である。
 たしかに本作品の山﨑賢人は、これまでの作品とは一線を画している。それは見た目でも明らかで、本人がインタビューで10キロ増量したと言っている通り、筋骨隆々の姿を披露している。
 強くてタフで勇敢で、女性や子供や老人に優しくて、おまけに傷の治りが驚異的に早いというのだから、たしかにカッコいい。正確に言えば、カッコいいのは主人公の杉元佐一なのだが、演じている山﨑賢人もカッコいいとなるのは、女心の都合上、やむを得ない話だ。

 物語は時間的にも空間的にも広がりがあって、大変壮大である。主な舞台が広大な北海道だから尚更だ。登場人物も多く、年齢も職業もそれぞれの目的も、全部バラバラだ。最後はいろいろに繋がり合って、大団円となるのだろうが、それにはとても128分では終わりそうにないと、中盤で気がついた。

 アイヌの映画では、1月26日(金)には映画「カムイのうた」が公開される。大正時代を生きたアイヌの若い女性の物語のようだ。本作品は漫画が原作だが、アイヌの物語が相次いで作られているのは、2016年に杉田水脈が「アイヌの民族衣装のコスプレおばさん」という差別投稿をしたこと、札幌法務局などが人権侵犯であると認定したことなどが影響していると思う。LGBTと同じように、これまで声を上げてこなかった虐げられた人々が声を上げるようになった訳だ。

 若い主人公とバディを組むアイヌの若い女性アシリパを演じたのが山田杏奈で、昨年公開の映画「山女」で好演していたのが印象に残っている。同作品のレビューには「山田杏奈は可愛い路線をかなぐり捨てて、共同体に蹂躙される少女凛を存在感十分に演じてみせた。彼女にとってこの作品がターニングポイントになる可能性がある」と書いたが、本作品を観ると、完全に一皮むけたようで、舘ひろしや玉木宏(なぜかどっちもひろし)といったベテランに伍しても、一歩も引かずに互角に渡り合える存在感と安定感がある。その上、僅かな表情の中に年頃らしい乙女心を垣間見せる演技をする。大したものだ。

 山﨑賢人もよかったが、本作品の目玉は山田杏奈だ。アイヌ民族は江戸時代から虐げられてきた。現在でも杉田水脈のような差別主義者がアイヌの人権が認められるのを阻んでいるくらいだから、立場としては杉元よりもずっと弱い。アシリパがどのような運命を辿るのか、そして山田杏奈がどのように演じていくのか、続編が楽しみである。
耶馬英彦

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