海賊K

ガザ 素顔の日常の海賊Kのレビュー・感想・評価

ガザ 素顔の日常(2019年製作の映画)
4.4
この一週間パレスチナのことで各種報道を眺めながら募る想いだけが高ぶり、下手に動けず例えようのない違和感の中でモヤモヤしていた。人の命は数ではない。それでも、先にどっちが手を出したやきっかけで善悪が決まり、情報操作も政治も動く。そんな馬鹿げたプロパガンダ。南アフリカでは30年前に終わったアパルトヘイトが、「ソウェト蜂起」以上の惨劇が未だに行われている。それでも何もできない自分の無力さに声を上げるのもためらっていた。そんなとき、僕にセカイを教えてくれた敬愛するクリエイターの先輩が教えてくれたのがこの映画。

僕らはあまりにも「当たり前」に慣れすぎている。だから命の価値も見失って当然なんだろう。

ただの一度もその地に足を踏み入れたことはないのに、二十年近く声を上げてきた世界の縮図パレスチナ・イスラエル問題。昨年上映されたこの映画「ガザ素顔の日常」には、様々なパレスチナガザ地区でのまさに日常が切り取られている。どんな人とも笑顔で接するタクシードライバー、息子がイスラエル軍によって理不尽に捕まったハマスを嫌う代々漁師のお父さん、インティファーダ(民衆蜂起)で負傷した若者に寄り添う優しさの塊の救命士は「こんな状況でも何もしないパレスチナ人以外すべての人に怒りを感じる」と嘆き、その抗争に巻き込まれて車椅子生活になったラッパーは「生きる意味が分からない。ただチャンスだけが欲しい」と歌い、家族を殺されて「昔は兵士になりたかった」けどやめたファッションデザイナーの美人婦人、現実逃避のためにチェロを奏で続ける少女、一日塩をなめることだけでなんとか生き延びる少年、大学を出ても職につけない若者たち、イスラエル軍による空爆を受ける市民の逃げ惑う姿、届かぬアッラーへの祈りに泣き叫ぶお母さんたち。1948年から今まで75年間攻撃され続けている「これまで運よく生き延びられたが、5分後に何が起こるかわからない」パレスチナに降り注ぐ不条理な現状。

これを見ているどれくらいの人が今の現実を知りたいかは別として、ただここに刻み込む。実はイスラエルとあらゆる同盟を結んでいて無意識にも知らないところで加担してしまっている僕らには目を背けることは出来ない。

例え同じ場所にいても、何を見聞きしたところで変えるも変わらずも全く違う行動に出るのがまた人である。僕自身、嫌いな人に対する赦しが出来ないごときではここでの停戦は求められないだろう。

だから自分を変えたいと思う。
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