安堵霊タラコフスキー

パシフィクションの安堵霊タラコフスキーのレビュー・感想・評価

パシフィクション(2022年製作の映画)
4.4
結構苦手意識のあったアルベルト・セラの作品としては存外と言ってしまえるくらい気に入った、タヒチを舞台とした独特な映画。

というのも今は亡き映画監督らの作品群を思わせるようなものがこの作品の雰囲気や特色から多数感じ取れたところが要因として一番大きく、マノエル・ド・オリヴェイラやジャック・リヴェットを思わせる緩慢な展開と表現、ヴィスコンティの影響を受けた後期ファスビンダー的なバーの灯り、手持ちカメラを全く使わないカサヴェテスと形容できるような演出等、かつての様々な名監督のハイブリットとも言える表現がリアルな超現実的世界観を生んでいて好きにならずにいられなかった。

そしてそんな名監督的性質を抜きにしても、美しい場面が随所で見事な映像として切り取られていたのもまた白眉で、偽ショーン・ペンみたいな容姿に変貌していたブノワ・マジメルも作中で発言したように心が洗われる気分を味わえたのが良い印象となった。

しかし手放しで褒められる内容ではないことも認めざるを得ず、過去作がそうだったように場面の空気感が良いとはいえ台詞を重視し過ぎな箇所がかなり目立っており(フランス語理解してたり字幕見てたりしないとリゾート地に降りかかる問題とか一切わからない)、それでいて台詞の少ない場面には抽象的で理解が困難なものが多かったように思え、そういう取っつきにくい内容に3時間弱難なく付き合うのは好印象を覚えた身でも結構きついものがあったのでかなり人を選ぶ作品だったと言える。

なので見所や評価に値するポイントがあってもカンヌで無冠に終わったというのも、上記の取っつきにくさ故に拒否反応が出た審査員が出たと推測すると別段不思議にも思えないことで、今回の東京国際映画祭での上映以降ニッチな内容と長い上映時間に忌避されて劇場公開されなくなっても残念ではあるがしょうがないことかもと考えてしまう。(それだけに今回なんとか鑑賞できたのは僥倖だったとも言える)