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プアン/友だちと呼ばせてのsomaddesignのレビュー・感想・評価

プアン/友だちと呼ばせて(2021年製作の映画)
5.0
マンハッタンでバーを経営するタイ出身の青年ボスは、バンコクで暮らす友人ウードから数年ぶりに電話を受ける。末期の癌を患うウードは、残り少ない命のためにボスに最後の願いを聞いて欲しいと話す。バンコクへ駆けつけたボスが頼まれたのは、ウードが元恋人を訪ねる旅の運転手だった。
「恋する惑星」などの名匠ウォン・カーウァイがプロデュースを手がけ、2021年サンダンス映画祭のワールドシネマドラマティック部門で審査員特別賞を受賞。

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「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」で注目を集めたタイのバズ・プーンピリヤ監督の最新作。「バッド・ジーニアス」の時はナタウット・プーンピリヤ監督だったのに、いつの間にか覚えやすい名前に変わっててありがたい。(タイの人名の覚えづらさったらないのよ)

原題「One for the Road」
Weblio辞書によれば「別れを惜しんでくみ交わす一杯」。どーりでいろんなカクテルや酒がいっぱい出てくると思った。友情ドラマ・人間ドラマの中心に酒もいる感じ。プーンピリヤ監督の半自伝的な物語で、監督自身NYでグラフィックデザインを学んだ経験があり、実在の若くして他界した親友に捧げられた作品でもある。(エンドクレジットの前に『ロイドに捧ぐ』って)
監督自身がバンコクでバーを経営してることもあるし、シナリオをバーで書くこともあるそう。カッコよすぎ、出来すぎでわ😅


音楽満載のロードムービーなんだけど、タイポップスや洋楽が中心なので、「ああ、俺がもっと音楽に詳しければ……」と悔しい気持ち。権利関係で難しいんだろうけど、劇中の曲にも歌詞字幕があってくれれば、もっと楽しめた気がする。自分の学のなさが惜しまれる。
音楽映画で元カノ巡りをするって要素は「ハイ・フィディリティ」、癌の友達との珍道中かつ実話ベースってトコは「50/50」がインスパイア元と思われる。


熱い友情がベースの物語なのに、ボスもウードもちょいちょい女性関係がだらしない。「別れた元カノは今でも気にかけてくれてるハズ☞今でも好きなハズ☞会ったら喜ぶぞ(°▽°)」って妄想が前提にあって、物語の進行と共に打ち砕かれる姿が愉快。元カノからすれば「どの面下げて会いに来とんじゃ💢」「おめぇは謝って満足かしらねぇが、こちとら思い出したくもないんじゃ!」「やっと治った傷口広げにくんな、ボケ!👊」って展開をいっこも想定してないのがウードのヤバさで、最後まであんまり分かってないのが面白かった。描写の美しさでボヤかされてるけど、ほぼ恋愛の地獄巡り。
映画の前半はエモい友情ロードムービーなのに、後半は妄言と後悔と贖罪の物語になって、入り口と出口が全然違う味わいの映画だった。


監督インタビューによれば、全てのキャラクターに実在のモデルが存在するそうで、彼女側のエピソードも監督自身の体験が生かされているそう。甘酸っぱい思い出に消化できてるのは自分だけ……って恋愛の一方通行性を俯瞰する映画でもあるのかも。

ボス役のトー・タナポップ。色男で軽薄だけど、実は面倒見が良くて情に厚い。自分で壁を作って
クランクイン前にはカクテル作りの特訓をしたそうで、バーテンダーの所作がトム・クルーズばりにかっこよかった。
映画全部を見終わってから振り返ると、心の穴を埋めるように夜な夜な違う女の子をとっかえひっかえしてたのが分かる。

ウード役のアイス・ナッタラット。役作りのために1ヶ月半で17キロの減量を行い、2ヶ月に及ぶ撮影中その体重を維持。実際にウェイターとしてバンコクで一ヶ月、NYでも撮影場所のタイレストランで働いた。異国でウェイターとして働く人の仕事観、人生観を学んそう。癌になってからの演技は、患者さんのいる病院へリサーチへ赴いたり、監督の親友ロイドさんにアドバイスをもらって演技のロールモデルとした。シーンによって別人のような見た目で、時代によって少しずつ人生観が変わる複雑な難役を好演。死に直面した青年ではあるけど、可哀想さに同情するより、旅の完遂を応援したくなるキャラになってた。

プリムを演じたビオーレット・ウォーティア。タイとベルギーのハーフで横浜生まれ。タイでは圧倒的人気を誇り、歌手やモデル・俳優業に大活躍してるそうで、2015年の映画「フリーランス」でスパンナホン賞(タイのアカデミー賞)の最優秀助演女優賞を受賞してる。

余談)
来日時の監督舞台挨拶によれば、監督の実在の元カノがモデルになっているそう。プロデューサーのウォン・カーウァイと話すうちに今作のテーマでもあるので「ちゃんと話してこなきゃ」となったそう。結果、モデルになっただけでなく、その反応は映画の通りだったとのこと。そらそう。


58本目
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