たく

絆のたくのレビュー・感想・評価

(1949年製作の映画)
3.7
イタリアを舞台に、幸せに暮らす家族が一人の男の介入によって壊れていく悲劇を描いてて、「ニュー・シネマ・パラダイス」で本作の場面が引用されたとのことだけど全く覚えてなかった(同作では当時の新作映画として本作が上映される)。邦題の「絆」からは固く結ばれた家族の愛という印象を受けるものの、原題“Catene”の本来の意味は「鎖」。これはローザと家族との結びつきのことなのか、ローザとエミリオとの切りたくても切れない関係のことを指すのか、終盤まで観る者を惑わせるという秀逸なタイトルだと思った。夫役を演じたアメデオ・ナザーリは、「カビリアの夜」でカビリアをたぶらかそうとする人気映画俳優を演じてて、本作とは全く違う役柄だった。

自動車修理工のグリエルモの工場に、ある日エンジン不調の車の修理の依頼が舞い込む。この車が実は盗難車で、グリエルモの妻のローザの元婚約者であるエミリオがこの車両盗難に関わってたことから二人が偶然の再会を果たし、ローザを諦め切れないエミリオがローザに強引に迫っていくという不穏な展開。ローザがきっぱり断れば良いものを、彼女は彼女でエミリオにまだ何となく未練が残ってる感じで、彼の強引な誘惑を拒否しきれないところがもどかしい。そして二人の様子をついに息子が目撃してしまうのが悲劇の始まりで、序盤でいかにも幸せそうな家族4人の姿を見せられてるだけに、息子の失望の表情に胸が痛む(ここはすごい名演技だった)。

グリエルモにはちょっと鈍いところがあり、息子の態度の異変を見ても裏で起きてる事態に全く気付かないところにイライラさせられる。そしていざ事実を知ってからの行動が早くて感心した矢先に、行き過ぎた行動に走ってしまう。ここで観ている方としてはどうしてもローザの行動を責めざるを得ない心境になるけど、ローザがエミリオに会いに行ったのは断りの意思を伝えるためという描かれ方で、最終的に彼女の自己犠牲によってグリエルモが救済されるところからの幕切れにはジーンと来た。
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