耶馬英彦

1640日の家族の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

1640日の家族(2021年製作の映画)
4.0
 女性だけが母乳を分泌することと関係があるのか、母性は専ら女性の特徴である。どちらかというと理詰めで考える男性に対して、女性はどちらかというと情緒を優先する。
 本作品の「マモー」は後者の典型で、何かあっても抱きしめてキスをすれば解決すると思っているみたいに、シモンにキスをするシーンが殊の外多い。愚かな母親に映るかもしれないが、頭のよさは十分に伝わってきているから、愚かというよりも、みずからの母性を制御できないように見えた。
 そんな「マモー」の葛藤が本作品の主眼で、母性の強い女性だからこその物語である。独善的な部分もあるが、母親としての愛情はとても深い。子供の世話を焼きすぎる感じだ。家や車に子供を置き去りにして死なせてしまう母親とは対極的である。
 シモンは「マモー」の思惑を敏感に感じ取り、子供ながらも自分の立場を守ったり希望を叶えようとしたりする。6歳児はもう立派にひとつの人格だ。母親との穏やかな会話は、実は互いに距離を測りながらのスリリングなものである。
 他の家族もそれぞれにシモンとの関係性を築き、関係性の終わりに対応する。さよならだけが人生だ。

 里親の苦労と喜びと悲しみを全部描き出したような作品で、全体として里親制度には肯定的である。子供を育てるにはシステムだけだと不十分で、どうしても人力が必要となる。「マモー」は愛情は十分に備わっているが、自制力に難があった。しかし夫がそれをカバーして、里親夫婦としては満点だ。子供を育てられない親の子に生まれてしまった子供にとっては救世主のような存在だろう。ラスト近くで紹介された動物セラピーを利用した養護施設も秀逸な行政である。シモンはいい子に育つだろう。

 福祉事務所の駐車場に停まっている自動車は、日本の車種で言えばAQUAやNOTEやFITみたいな小さな車ばかりである。最近はフランスでもコンパクトカーが主流なんだと、妙なところで感心したのであった。
耶馬英彦

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