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1640日の家族のtakのレビュー・感想・評価

1640日の家族(2021年製作の映画)
3.8
アンナとドリスの夫婦は里親として、生後18ヶ月だったシモンを4年半育ててきた。自分の子供たちとも良好な関係で、幸せな日々を過ごしていた。ソーシャルワーカーからシモンの実父が子供と暮らすことを希望しているとの連絡が入り、まずは週末だけ実父と過ごすことになった。それはアンナを"ママ"と慕うシモンだけでなく、アンナと家族の気持ちを揺るがすことになっていく。

育てる子供を愛すること、
その一方で愛しすぎてはいけない。

規則だからとドライに割り切ることも難しい。幸福そうな家族の様子から始まる映画は、だんだん葛藤のドラマに変わっていく。クリスマスは実父の元で過ごさなければならないが、父親は仕事で忙しそうだ。シモン自身は、雪山に行くアンナ一家について行きたい。アンナはソーシャルワーカーに相談せずに、山に連れて行くことを選ぶ。里子の先々の自立や親子関係と、子供自身の気持ち。そしてシモンを離したくないアンナの気持ちが交錯して、観ていて切なくなる。

フランス語の原題はLa vraie famille(本当の家族)、英題はThe Family。どちらもタイトルから"家族"の姿について考えさせる意図が感じられる。血のつながり、育ての親という関係だけでなく、愛し愛されて共に暮らすことが"家族"のカタチだと伝えたかったと思うのだ。

ところが邦題は「1640日の家族」。本編では一緒に暮らす4年半という期間を殊更に強調してはいなかったのに、無駄に情報量を増やした、言わばお節介な邦題だ。観客の受け止め方は様々だと思うけれど、1640日とわざわざ"終わり"を示すことでシモンとアンナ一家が期間限定の疑似家族でした、という残念な印象につながってしまう。愛し愛されてる関係は変わらないのに、タイトルで感じた先入観が鑑賞の邪魔になってしまう。

実の父親であるエディが、妻の死から立ち直って息子と暮らしたいと前向きな意思を示しているのに、映画での印象は身勝手な人物とも受け取れる。里親が主人公だから致し方ないのかもしれないけれど、エディのシモンに対する気持ちや、彼の願う"家族"をもっと知りたかった。また、アンナがシモンに対する正直な気持ちを示すことで、プロの里親(フランスでは里親は国家資格で、報酬も日本の倍だとか。)として不適格と扱われる様子は観ていて辛い。人を思う気持ちに嘘はないのに。

シモンを演じた子役ガブリエル・パヴィ君、大人たちの間に挟まれた難しい役柄を見事にこなす。いつか成長した姿をアンナ一家に見せられる、再会の日が訪れますように。

北九州映画サークル協議会例会にて鑑賞。
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