役人者

デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリームの役人者のレビュー・感想・評価

3.6
記録映像としての所謂ドキュメンタリーではなく、人間デヴィッドボウイを、彼の楽曲やパフォーマンスとともに全神経で浴びる映画。デヴィッドボウイ教を布教する為の、啓発映画のようでもある。歴史的価値があると思われる名曲のライブ映像が見れるので、70〜80年代の洋楽好きにとっては、それだけで観る価値はあるかも。かく言う自分は、90年代に出たアルバムしかちゃんと聞いていない、という多分結構珍しいパターン。あとは、超有名な曲を数曲知ってるだけ。昔はあんまり大きな声で言えなかったけど、OUTSIDEが一番好きなアルバムだったので、世間的に再評価されて、少しだけ市民権を得られた気分。そんな浅めファンの感想。
彼にとっては、答えのない問いに対して、もがき続けるプロセスこそが、芸術表現そのものだったんだろうな。だから常に変化を求めたし、カオスに傾倒したし、あらゆるステレオタイプに収まることを嫌ったんだと思う。そんなとんがった有り様の一方で、インタビュー等の発言を聞いてると、意外と世界に対して融和的、楽観的な発言が多いのも印象的だった。自らを理想の状態に保つ為、常に動き続け、世界と思い描いた通りの関係を築いてきた、という自負があったからなのかもしれない。あるいは、意味深な発言の数々も、大衆を煽動して熱狂を生み出す為の、自分自身を素材にした仕掛けの一つだったのかもしれない。いずれにせよ、その変化し続ける混沌としたモノローグを、全部理解し切ることなんて到底できない。聴衆に対しても、完成された枠の中で落ち着いてないで、変化し続けることを求めたんだと思う。どんな枠組みを以ってしても捉え切ることができない、デヴィッドボウイという混沌を前にして、「それでもそこでもがき続けることに意味があるんだよ」と言われた気がした。
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