Jun潤

遠いところのJun潤のレビュー・感想・評価

遠いところ(2022年製作の映画)
3.8
2023.07.12

予告を見て気になった作品。
沖縄県の貧困家庭の現実を描くということで、遠く離れた土地での出来事として捉えるのか、それとも日本全体のこと、明日は我が身として捉えられるのか、期待して鑑賞です。

沖縄県、コザ。
キャバクラ嬢、アオイ、17歳ー。
幼い息子と、働かない旦那の面倒を見ながら、夜毎働きに出ていた。
誰も助けてくれない、自分の力だけで生きていくしかない状況にすら、悲劇は重なる。
警察の取り締まりが強化され、店では働けなる、旦那のマサヤはアオイが貯めた金を持ってどこかへ消えてしまう。
夜職に比べると全く稼げない昼職、マサヤが起こした暴行事件に対する示談金。
生活のために身体をも売っていくアオイから、現実は友達や息子をも奪っていくー。

いやもう辛え。
話的にズルズル引きずっていたわけでもないのに、これ以上観せないでくれ、もう終わってくれとすら願わせにくる悲痛で苦しい描写の数々。
映画的なドラマが完膚なきまでに排されていたことで、現実の辛さが如実に浮き出ていました。

持論ですがね、出てくる男がクズであればクズであるほど作品は面白いんです。
マサヤを始めとして、身を売らなければならない女性の苦悩を楽と捉えたり、人ではなく売り物として女性を扱う男性たちには同じ男から見ても本当に不快な存在でしたね。

また、章立てて物語が展開されていく中で、「海の音」の章では、父親からの嫌味と中身のない空っぽな行政の対策で、美しく聞こえるはずの海の音と聞こえだけ良い演説カーの放送がリンクしていました。

『次の世代に残してはいけない』?
同世代は皆同じように辛く、自分のことだけで精一杯なのに、上の世代から守られていないのに下の世代を守らなくちゃいけない、今の世代はどこにもいませんか?

学歴も就業経験も無く、支えてくれる人もいないのに育てるべき子どもがいる、そんな女性が生活のためのお金を稼げる場所を奪い、助けて欲しい時に助けず、救いの手が自分の大切なものを奪っていく。
親子で心中してしまう痛ましい事件が起こると、子どもの気持ちを考えろという意見が散見されることもありますが、子どもは残された方がいいのかもしれないけれど、自ら命を絶つ選択を迫られるほどに追い詰められた母親の気持ちはどこにもないのか。
生きていても辛く、子どもも奪われてしまうのならば、遠いところへ行く時は、せめて一緒にー。
Jun潤

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