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『The Sun in a Net（英題）』に投稿された感想・評価

KnightsofOdessaの感想・評価

2022/06/05 22:28

4.0

[スロヴァキア、太陽を捕まえるひと夏の想い出]　80点

傑作。シュテファン・ウヘルの長編デビュー作で、チェコスロヴァキア・ヌーヴェルヴァーグの開祖的存在。現代スロヴァキアの少年少女の物語。ブラチスラヴァにある同じマンションに暮らすファヨロとベラは屋上で日向ぼっこをしていた。彼らは恋人同士にも見えるが、二人の反応を見る限りそういうわけでもなさそうで、実際に二人が離れるとそれぞれが別の異性を見つけて関係を結んでいる。古い建物に雑然と大量のテレビ用アンテナが刺さる屋上は、近代化に失敗した未来都市のようで、二人はその間を器用に歩きながら、空を見上げている。やがて、ファヨロは"評判を上げるため"田舎にある集団農場で行われる一ヶ月の収穫合宿に参加するためブラチスラヴァを離れ、二人の物語は都会と田舎を交互に往来しながら語られていくことになる。

ベラは両親と弟の4人で暮らしているが、母親は盲目で、父親はそれに悪態をつくなど、家の中には常に緊張感がある。それと同時に、家から一歩も出ずに音のする方に顔を向けながら虚空を見つめる母親が画面端に現れるという息苦しさに似た悲しみもある。後に、失明の原因が父親の不貞にあり、薬物自殺に失敗したからと明かされ、それらの原因が不在の父親にあることが分かるのだが、全てを受け止めるのは姉弟しかいない。一方、ファヨロは集団農場でベラの祖父と出会い、自身の息子(ベラの父)と喧嘩して疎遠になっていることを知る。こういったテーマ(若い男女の行きずりの関係、自殺未遂、集団農場の杜撰な運営等)は当時のチェコスロヴァキアではタブー視されており、それを積極的に用いた本作品は、(上記の通り)後に続くチェコスロヴァキア・ヌーヴェルヴァーグの土壌を作ったといっても過言ではないのだろう。

映画は日蝕を見る場面で幕を開ける。日蝕とは"見る"ことに特化したイベントであり、明暗すら感じられないベラの母親は息子(ベラの弟)に何が起こっているかを尋ねるしかない。そして、曇天の中で弟は"晴れている"と嘘を付き、ベラは影で泣きながらそれに向き合うことを拒絶する。本作品は太陽/日蝕、見える/見えないといった二項対立が中心的に扱われ、それはリアリズム的な描写に介入する写真的な静止や会話すら中断させるジャンプカット、窓ガラスや鏡などの反射、ベラの家族に対してファヨロの家族が全く語られないなど映像や物語的対比として映画を貫く。

原題"網の中の太陽"とは、ラストで盲目の母親をポンツーンに案内した姉弟が、干上がった湖を満水として伝える台詞の中に登場する言葉である。同じ頃、ファヨロはマンションの屋上で、その網を張った老漁師がいずれ太陽を捕まえるかもしれないと冗談めいたことを考えている。落ちるかもしれないからとじっとしてる母親と、120年後の日蝕について考えるファヨロを映す荒涼とした雰囲気は共通していて、さながらひと夏に起きた物悲しい変化を物語っているようだった。

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安堵霊タラコフスキーの感想・評価

2022/08/09 00:19

4.7

一応青春映画的な体は為しているが、実態は少しエイゼンシュテインやオーソン・ウェルズを髣髴とさせる芸術的映像センスが光る奇抜な作品となっていて、こういう構図で魅せる映画が好きな身としては堪らない一本。

このシュテファン・ウヘルという監督は初めましてな人物だったけど、後発の作品とかに目を通しても結構映像に重きを置いた監督っぽいから好みかもしれない。