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窓辺にてのRenのレビュー・感想・評価

窓辺にて(2022年製作の映画)
3.5
こういう今泉監督作品が好きだ、と改めて思えた。おそらく今泉作品史上最多(?)の恋愛が登場する中、そのどれもがドラマチックでなくとも魅せきる143分。良作。

『街の上で』の延長線上のようであり、かつ『かそけきサンカヨウ』のようにひたすら人物の機微にフォーカスを当てドラマに仕上げた、繊細で温かい映画。
『街の上で』はまだ明確にコメディだけど、今作はその要素も減らしつつ内容はボリュームアップしている。ここまで劇的なことを起こさず2時間半の劇映画を作る監督は現行の邦画界では非常に稀有な存在だと思うし、このまま作り続けてほしいなと切に願う。

自身の「好き」という感情に確信が持てない茂巳(稲垣吾郎)が、恋愛にハマっている他者と触れ合い疎通し悩み行動しながら、他者に理解されない感情(=自分自身)を肯定していく。恋愛に 良い/悪い も 正解/不正解 も無いというメッセージを、焦らずじっくり時間をかけて人肌に温めていくような感覚に包まれた。過去作同様、真っ直ぐな恋愛が報われる訳でもなく、浮気・不倫が断罪される訳でもなく、0か100かの結論を出さない辺りが前述のメッセージに起因しているのだと思う。

前半部、茂巳が留亜(玉城ティナ)を始めとする人物たちと出会い話すことで自身と向き合う。中〜後半部、さらに多くの人物と茂巳のストーリーが交わることでさらに景色が広がり、彼自身が一見孤独な悩みを抱えていながらも「孤独ではない」という救いのようなものが見える。
茂巳が初めて誰かに悩みを打ち明けた後、具体的にはゆきの(志田未来)が登場して以降が個人的には好きだしどんどんのめり込んでいった。脇役に手を抜かない。脇役が魅力的。妻も友人も友人の妻も高校生作家も果てはタクシーの運転手までもが、誰か/何かを好きで悩んでいる。そういった人間くささが、不倫映画なのに全くドロドロせず愛おしく感じてしまう魔法だ。

そして何より吾郎ちゃんが一世一代のハマり役。『mellow』の田中圭のような振り回され狂言回しを見事に体現しており、今泉ワールドに自然すぎるほど自然に馴染んでいた。誰かの発言に「え?」と聞き返す場面が多くて、分からないけど分からないなりに自分自身の悩みと向き合っていこうとする人間性が伝わってくる。

全体を通して会話自体の軽妙さやユーモアが控えめで、インタビューやカウンセリングっぽさが勝っていたような気がしてアクセルがかかるのに少し時間がかかったような印象は否めない。一方で、それまで非常に清潔に描かれていた茂巳が俗な世界へ足を踏み入れるところなどは、ギャップギャグとしても、他者のストーリーを自分なりに理解してみようとするいい大人の背伸びの場面としてもユーモラスで楽しめた。前半に感じたわずかな冗長さも必要なフリで、終わってみると後味は爽やか。

感想がどうしても抽象的で言語化に時間がかかるけど、それはきっとこの映画自体が、言語化できない「"好き" の在り方」を描いているから。観た後もこの映画のことを考えてしまうし、どんどんこの作品ごと好きになっていく、そんな映画。

その他、
○『街の上で』では「君のいない街の俺」と対比するように出てきた「(意味の無い味の)チーズケーキ」。今作では、「フルーツパフェのように飾りすぎていない丁度良く完璧なもの」としてチーズケーキが出てくる。
○ 川の流れに揉まれて削られた綺麗な丸い石。そんな石は、あの人の手に渡ることで「世評の苦しみや悩みに揉まれながら成熟していく人間」とも捉えることができる。
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