嶽花征樹

ザ・メニューの嶽花征樹のネタバレレビュー・内容・結末

ザ・メニュー(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

2022/11/27追記

ブログででも感想を書きました。
https://takehana-blog.com/cccc/?p=5776

以下はパンフレットを見る前の感想として残しておきます。

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不穏で醜悪で神聖。

伏線回収をするつもりが無いタイプの作風なので、そういうのが無いと納得できない人には評価が悪くなりそうで、確実に人を選ぶ作品だと思いますが、自分は幸いにして面白く楽しめました。

突発性難聴になってからは気を抜くと耳鳴りがなるようになったにも関わらず、この作品を観てる最中は一度たりとも耳鳴りを感じなかった、というだけでも見たかいはあったと思います。気がついたら終わってた、って感じ。手を鳴らす挙動だけで、こいつは只者じゃないと知らしめる演技力、カリスマ性といった怪演に最後まで引っ張っていかれた感じです。

R15+とあって凄いゴア表現くるかと覚悟してみたんですが、そこまでは露悪的ではなく、それが逆に狂気を際立ててる感がありますね。ナイフを振りかざしてくるような直接的な暴力ではなく、もっと得体が知れない底が見えないものがあるというか。伏線回収をしないことで底を見せないようにして、不気味さを増しているというか(そこが人によっては納得感がなくて低評価に繋がってるので両刃の剣)。

批評ばかりで料理したことが無い人間が現実を思い知らされるくだり、映画を作った事がないのに失礼な物言いばかりして常にネガティブレビューしかしてないような輩が天誅くらってるみたいでザマァ!って大喝采ですわ。自殺する直前に耳元で何を言ってるか分からないのも雰囲気があってよかったですね。凡人には理解できない感がよい。逆に言うと、この嫌な人物をあそこまで演じた力量がすごいですね。キマりすぎやろ、って。

ミッドサマーみたいな印象もあるのですが、狂ってる方向性が違うように感じられました。料理を突き詰めたあまり、なんでああなっちゃうのかやっぱり理解できないし、そこが不気味で素晴らしい。食べるな、味わえ、と言って腹を満たせない料理を出すまで拗らせちゃってるあたり、常人にはついていけません。

そういった不条理感もあって、自分的にはコメディでした。実際何度か笑っちゃったし。大真面目に悪趣味なことをやってくるさまが、皮肉という名のエッジが利いてるなぁ、って。概念みたいで全く美味しそうに見えない料理の数々とか、スタッフが自殺したあとに「値段に含まれています」と大真面目に発言したりとか、パンがないと言ってるのにテイクアウトの料理は作ったりとか、最後の最後の料理の材料とか、ほんとにもう。

テイクアウト可能な料理が出てくるくだり、パァン!という音が契機となったんですかね。劇中でも「ずっとやるの?」って言われてて自分もそう思ってたんですが、あれをこう使って打破してくるかと感心。手の音が、提供される側と提供する側の架け橋になったと解釈しました。

客が12人ということで、これはシェフとともに描かれた最後の晩餐なのかなという気もしたんですが、そういう符号は見当たらなかったので自分の考えすぎなのかもしれませんが、そう考えさせられてしまうくらいに奇妙な神聖さや荘厳さを感じ取ってしまいました。
嶽花征樹

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