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ザ・メニューのambiorixのレビュー・感想・評価

ザ・メニュー(2022年製作の映画)
4.0
こういう映画、大好き(笑)。監督のマーク・マイロッドはお初ですが、製作プロデューサーがなんとあのアダム・マッケイ。言われてみれば確かにアダム・マッケイ臭全開、品性下劣な人間どもを完膚なきまでに洒落のめしてくれるサスペンスコメディの佳作でした。のわりに世間的な評価がよろしくないのはなぜなんだろう。レビュー時点ではFilmarksが⭐︎3.6、映画.comにいたっては⭐︎3.4とその辺のクソ映画扱い。これは推測ですけど、本編でこき下ろされる対象があんまり広範囲におよぶので、「おれ/わたしのことをバカにしてる!」と感じてバツが悪くなってしまった人が多いのかもしれません。それもそのはず、本作『ザ・メニュー』が槍玉にあげるのは別に金持ちだけじゃあないんですね。
映画のあらすじを簡単に説明しておくと、孤島に佇む完全招待制の超高級レストランに12人の客がやってきて、レイフ・ファインズ演じるカリスマシェフのぶっ飛んだもてなしを受ける、というもの。なんだけどそのお客というのが、現代社会における「いけすかないエセ文化人」のみごとな見本市になっている。料理の味なんざろくすっぽ分からねえくせしてキャリアの箔付けのために孤島くんだりまでやってきた起業家?の若造連中はどこか成金ユーチューバーの下品さを思わせるところがあるし、何の意味もメッセージ性もない料理をもったいつけた訳のわからん言い回しで無理やり褒めてみせる評論家とその腰巾着なんかも皮肉が効いていていい。そして極めつけはみんな大好きタイラーくん(ニコラス・ホルト)でしょう(笑)。シェフの出す、客をおちょくったような料理を見て号泣、食っては長々と蘊蓄をぶち始める。パンのないパン料理を食わされて「パンがないほうがかえって嗅覚が鋭くなっていいやね」かなんか抜かすくだりは今年いちばん笑ったかも。いわゆる「情報を食ってる」ってやつだよね。ひろゆきやホリエモンに心酔してるタイプ(笑)。自宅の本棚には自己啓発本がズラーっと並んでおったりしてね。それでもタイラーの振る舞いに若干の居心地の悪さを感じてしまうんだとしたら、それはたぶん観客のほとんどがタイラー的な要素を多分に持っているからなんだろう。今わかりやすいところでいうと暇アノンの連中なんかそうだと思うけど、教祖の言うことをなんでもかんでも全肯定、「あの人がそう言うんなら間違いないな」と自分の頭で考えることを完全に放棄してしまった人間だとか、口先だけは達者なくせに中身がすっからかんの人間だとか、現実やネットを見渡してみればそこら中にタイラーはいる。もちろんこの文章を書いている俺自身もほとんどタイラーなので、個人的には最後まで彼のことが嫌いになれなかった。ほならね理論でさんざっぱら恥をかかされてからのあの最期はさすがに気の毒すぎるしな…。
てな具合で、とにかくふざけた映画なんだけど、最後の方には泣かせる場面もあります。とりわけシェフがマーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ)のためにアレを作るシーンの素晴らしさ。純粋にお客さんを喜ばせようと思って料理を作っていたころの自分を思い出したレイフ・ファインズがフッとさりげなく微笑む、あの表情だけで不覚にもブワッときてしまった。味音痴な薄らバカのために来る日も来る日もおべっかを使い続け、ついには料理に生き甲斐を見出せなくなったシェフだって、ことによると現代社会が生んだ被害者のひとりなのかもしれません。そんなシェフがラストのラスト、人生のすべてを賭して放ってみせる衝撃のデザートは必見です。貧乏舌の俺はアニャちゃんが食いさしたチーズバーガーで我慢しますがね、ガハハ😆
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