映画大好きそーやさん

野いちごの映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

野いちご(1957年製作の映画)
4.5
脆く惨めな人生の受容と、ささやかな実り。
実は水面下でイングマール・ベルイマンマラソンをしていたのですが、なかなか言葉がまとまらず今の今まで観たっきりの状態になっていました。
現段階でも完全に理解できた訳ではありませんが、1度言語化してみることで見えてくるものもあるのではと、筆を執ってみることにしました。
要領を得ない内容となっていたらすみません!
ちなみに、『仮面/ペルソナ』も鑑賞済みですので、そちらも近日中にレビュー投稿を致します。
まず、大前提として良い作品であることは言うに及びませんが、「今の自分に向けた作品」ではないなと感じました。
老医師が自分の人生を回想(追体験)しながら、後悔や挫折を清算してささやかな成長を果たすといったプロットを辿っていく訳ですから、上手く身体に染み込んでいかないのも無理はないでしょう。
ただやはりイングマール・ベルイマン作品だからか(と言えるほどは鑑賞できていませんが)、OP(掴み)に当たる悪夢のシークエンスから奇妙で美しいショットが続き、一気に映画の世界に引き込まれました。
針のない時計を目撃したり、自分の死体と出会したりと、発想に富んだ映像はどこを切り取っても秀逸で、映画好きが唸るのも納得のシークエンスでしたね。
ちゃんと冒頭で方向性とテーマ性を提示し、印象的なシークエンスを挟んで観客の心を鷲掴みにし、その後もテンポよく展開されていく物語に、あれよあれよと言う間にノせられて、そう停滞を感じることもなく走り切っていった作品でした。
とにかく1本の映画としての完成度の高さが凄まじく、鑑賞後の所感は優等生的な作品だなという言葉に尽きました。
全体的に過去に未練があって、後悔があってと、後ろ向きな感情が垂れ流されていくことに、賛否両論あるかとも思います。
ですが、私としてはネガティブが付き纏っている方が人間らしいですし、たらればで気を落とす自分の性格とも重なってくるようで、主人公とはかなり年が離れていますが、感情移入しながら観ることができました。
いつまで経ってもああしていれば、こうしていればが付いて回り、だからこそ過去を思い出すと心が重くなって、今を真っ当に生きようとするのが人間という生き物です。
本作は、そんな普遍的なテーマ性、人間の一側面を内包したような物語となっていて、鑑賞後ズシンと胸に残る1作でした。
歳を取ってから観ると、また違った感想を抱きそうですし、一生かけて何度も観直していきたいですね!
映画的なカタルシスも説教臭くなく用意されていますので、鑑賞後は背中を押してもらえたような、清々しい気持ちを味わうことができます。
イングマール・ベルイマンと言うと、難しい印象をお持ちかもしれませんが、本作に関してはかなり分かりやすかったです。
イングマール・ベルイマン監督作が手付かずの方で、作品に少しでも興味がございましたら、本作から入るのも悪くないかと思います。
総じて、映画的な快楽に酔いしれながら、ささやかな実りに勇気をもらえる作品でした!