お医者として優れていてもどんなに物知りでも、愛のあたたかさを知らなかった。
あるいは、遠い昔の記憶。
焚き火のあとが燻っているように。
哀しみと憎しみが支配して、自ら人との距離を一定に保っていた。
それを"孤独" と呼ばれていることを、彼は知った。
というより、思い出した。
そしてかつては自分にもあたたかい血が、流れていたことを。
哀しいことばかりを繰り返し繰り返し思い出す。
けれどその先の扉を開ければ、大切な人の笑顔をみつけた。柔らかく笑う、輝いていたあのころ。
ガチガチに固まっていた孤独の連鎖が、溶けて滲んだ。
きっと今日は、素敵な夢がみられますように。
わたしも、君も。