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バーバリアンのRenのレビュー・感想・評価

バーバリアン(2022年製作の映画)
3.0
界隈がわりと絶賛ムードだった気がしたのだけど、個人的にはそこまでハマれず。酷評するような映画では全くないが、単純に既視感が強すぎたのが一番の理由かも。やりたいことは良いもののもっと面白くなりそうだった....。

『フレッシュ』とか『アイ・ケイム・バイ』とか『夜を越える旅』とか、前後半で転調するホラー/スリラーが2022年だけでも50本くらいあるのでもうその構造自体を素直に有難がれない。「ホラーとはどんでん返しが起こるもの」「ホラーとは何らかの問題提起や批評性を内包したもの」という現代の潮流はしっかり汲んでいるが、クリーチャー(?)の造形といい地下というモチーフといい、新鮮味は最後まで薄かった気がした。"ホラー" というジャンルそのものの新陳代謝が良すぎることの弊害を思い知らされた作品だった。

Airbnbで予約した物件に宿泊しようとしたら、そこには先客が。女性はそんなダブルブッキングが原因で、見ず知らずの男性と同じ家で一晩を過ごすことに。
貧富の話か、人種の話か?と逡巡するもののそのどちらでもない場所へ連れていかれる。主軸が絶妙に確定しないまま物語にライドさせられる感覚は逆に不思議で、結構楽しめた。
言ってしまえば、今作は男女の性差における恐怖の非対称性を描いた映画。男性/女性の認知の差を、過剰にシリアスにせずジャンル映画としてパッケージした作品。フェミニズムホラーと呼ぶべきか。アプローチはモロに『プロミシング・ヤング・ウーマン』。

前々から自分が言っている「家」への恐怖はとても良かった。観た後、しっかりドアや長い廊下が怖くなる。今作では『家をめぐる3つの物語』や『ナイト・ハウス』のような「家」の恐怖そのものへ言及する話ではないのですが、舞台設定としてのイヤさはしっかり出ていた。

メモ
○ 普通にシャマラン的トンチキホラーだと思う。
○ タイトル『バーバリアン』(=野蛮人)の露骨さ。
○ 4:3



《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》










地下へと続く廊下と階段は、産道や子宮のようだと思った。強制的に赤ちゃん返りさせられる場所。「妊娠・出産」という女性の生物学的特徴そのものが檻となっている場所。
そんな場所で、出産の痛みや苦しみを知らない男性が、レイプ加害に傷付けられ苦しめられた女性からの攻撃に合うというのも因果なものだ。

酒も飲まず、相手の身分証明書の写真も撮るくらい徹底したリスクマネジメントを行うテス(ジョージア・キャンベル)。一方、かなり無防備に振る舞う先客の男性キース(ビル・スカルスガルド)。この時点で、「一つ屋根の下で男女が二人きりになる」ことへの男/女の認識の差が分かる。
出て行こうとするテスと、彼女を引き止めるキース。怯え、叫びながら薄暗い地下室を進むテスと、鼻歌交じりで揚々と採寸しながら地下室を進むAJ(ジャスティン・ロング)。男性が感じない恐怖を、女性は感じている。テスが面接官に言うように「私、意外とタフですから」と殻を被ることを女性はある種強制させられて生きている。当然、性加害で告訴されたAJはそういった有害な男性性の象徴。
AJはラストまで、分かりやすすぎるくらいクズに描かれている。胸糞なので、ジャンル映画的には彼が苦しむ場面があと3倍はあってよかったかも。

その他、
○ テス、二日目は宿泊先変えられたのでは?面接のために出ているのだから、もう一度戻ったのがよく分からない。昨日の居心地の悪さを考えたら、昼のうちに電話して何としてでも別の宿泊場所探すんじゃない?
○ レイプ犯のバックボーンをもっと知りたかった。彼が愉快犯なのか、それとも家庭・育ちで何か問題があったのかで物語そのものの深みが変わってくる気がする。
○ 老婆が到底人間ではない生命力と怪力なのはどういう理論?レイプ被害者側の人間をモンスターのように描くのは、さすがにヘンじゃないか?
○ ドアはなんで鍵かかった?
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