アルフ

エゴイストのアルフのレビュー・感想・評価

エゴイスト(2023年製作の映画)
3.5
エゴイストとはあなた方観客のことに他なりません。この映画には日本社会が同性愛者に抱いていてかつそうであってほしいと思う願望が投影されています。「ひっそりとトラウマを抱えながら日陰を生きて、よもや権利など主張せず自助努力し、社会に迷惑をかけることなく自死/病死/孤独死せよ」という願望が。いかなる物語であれば受容・感動・消費可能か正しく計算されて制作されているからこそ、用意周到に映画から除外されている要素もまた浮き彫りになっています。性的少数者も貧困者も、マジョリティ側を脅かすことのない弱者であり続ける限りにおいては感動ポルノのネタになるのですが、ここではマイノリティが幸福に生きること、そして制度的支援や権利獲得によって社会的包摂の対象となるといったより不可欠かつ重要な物語は徹底的に除菌され消去されています。

異性愛者であれば結婚して配偶者を扶養家族として養うことも、義理の親の面倒を見ることもありふれた話のはずです。それなのに同性愛者が結婚制度の外部で同様のことをしたら「エゴイスト」に見えたりそこに感動を感じるのだとしたら、あなたは異性愛中心主義的なバイアスを通して同性愛を眺め、かれらの行為をどこか市民未満の者たちのするママゴトのように感じているのです。この映画で繰り返される「ごめんなさい」という言葉は、贈与に伴う負い目の感覚を惹起し強調しますが、異性愛に基づく法的家族においては扶養は義務であり、そのような負い目を感じることなく与え合うことが制度的に設計され可能になっています。いわば異性愛者は制度に下駄を履かせてもらうことで関係性を構築・維持する感情上のコストからフリーになっているにすぎません。

そして映画を見終わった後、マジョリティが安心して強制的異性愛主義とネオリベラルな資本主義に支えられた日常に戻るために、同性愛者には必ず死んでもらうか孤立して孤独に生きていくことを示唆せねばならないのです。観た後にちょっぴり気分が重くなったり、何かを考えさせられた気になったでしょう?でも安心してくださいね。同性愛者は死を持ってあなた方の視界から消えてくれましたし、あなたはこの日常を変えるための行動を起こすことはこの先もありませんし、何も考えていません。だってエゴイストなんですから。
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