耶馬英彦

カムイのうたの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

カムイのうた(2023年製作の映画)
4.0
 衆議院議員の杉田水脈が「アイヌの民族衣装のコスプレおばさん」という投稿をし、それに対して札幌法務局などが、この投稿は人権侵犯であると認定したのは、2016年のことだ。
 本作品のモデルとなった知里幸恵さんが亡くなってから100年近く経っても尚、公開の場でアイヌを差別をする人間が存在し、しかも国会議員を務めていることに愕然とするし、暗澹たる気持ちにならざるを得ない。比例代表かなんだか知らないが、こういう人間を当選させる有権者がいることに、日本の未来について絶望を感じてしまう。

 しかし本作品のヒロイン北里テルの生きてきた短い人生の過酷さを思えば、安易に絶望などしている場合ではない。虐げられてきたアイヌの人々の生活がどれほど過酷で、どれほどの憎悪と怨恨を抑え込んできたか、想像さえできないほどだ。想像力が欠如している政治家は、本作品を観ても、何も思わないに違いない。アイヌの人々の立場が向上しなかった理由はそこにある。想像力のある政治家がいなかったということだ。もちろん、今もいない。

 映画の冒頭に語られる知里幸恵「アイヌ神謡集」の序文が素晴らしい。18、9歳の女性が書いたと思えないほど、深い考察に基づいた、格調の高い文章である。金田一京助の指導も少しはあっただろうが、基本的には、彼女が自分で書いた文章だと思う。このような文章を書く精神性の女性が、どうして虐げられ、虐められねばならなかったのか。「和人」の一人として、忸怩たる思いだ。
 杉田水脈は、一定の支持を得ていると聞く。人が寛容と優しさを獲得する日は、まだまだ遠いのかもしれない。人類の絶滅と、どちらが先だろうか。
耶馬英彦

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