ひとり舞台の映像化作品であることや、本編の前に作品のスタッフとキャストのインタビュー映像が流れるなど、「ナショナル・シアター・ライブ」という企画の作品を観ること自体が初めてだったので、かなり新鮮な体験をすることができた。場面の転換に応じて舞台上のテーブルを演者がガンガン動かしたり、芝居をしながら衣装を着替えたり、雨に打たれるシーンでは天井からほんとうに水が降ってきたりと、演者はもちろんながら舞台そのものの“生きている”感じが凄まじかった。広すぎも狭すぎもしない舞台上を過不足なく使い切っている。
性被害を受けた女性がこうむるさまざまな問題を浮き彫りにするテーマ設定は、ここ最近の日本において話題になっている件とも通じており、決して他人事ではない。法制度の問題、法廷という場の圧倒的なジェンダーバランスの偏り、事実ではなく人為的に歪められた信用をベースに展開していく裁判など、問題を問題として捉えるための“例題”としての秀逸さのある作品だが、それが決して現実離れしたケースではないのであろうなということも容易に想像がつく。とにかく観られて良かった。ジョディ・カマーの演技力に圧倒されっぱなしだった。
ガーデンズシネマでの上映後には、本作の字幕翻訳を務めた柏木しょうこさんのオンライントークイベントがあった。その中の話でハッとしたのが、ひとり舞台である本作には「性加害を行った男性の顔が出てこない」という点。映画のような映像作品だと、性加害を行った男性の顔があるのだけれど、ひとり芝居である本作にはそれがないため、「性加害を行う男性」を身体性を伴わずに描くことができていると。だからこそ、性加害を他人事としてではなく捉えることができるのかと自分は思った。