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MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらないのRのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

映画館で。

2022年の日本の作品。

監督は「14歳の栞」の竹林亮。

あらすじ

とある小さい広告代理店で働く吉川朱海(円井わん「MADE IN YAMATO」)は燃え上がる野心を持ちながらも月火水木金土日休みなく働き続ける中で余裕はゼロ。そんなある月曜日の朝、後輩二人組から「同じ1週間を繰り返している」という衝撃的な事実を告げられる。このタイムループを脱出するには永久部長(マキタスポーツ「MIRRORLIAR FILMS Season3」)にその事実に気づいてもらわなければならないと知った朱海たちはなんとかしようと奮闘するが…。

公開前からずっと気になっていて、近くのシネコンで今後の公開予定に入っていたので、始まったら即行こうと思っていたんだけど、なぜか謎になかなか公開されず、ようやく今週になって遅らせばせながら、公開されたので、やっと観にいきました!

いや、そりゃもう面白かったですわ!!

お話はあらすじの通り、所謂「タイムリープもの」。この手のジャンルといえばトム主演の「オール・ユー・ニード・イズ・キル」をはじめ、去年の「パーム・スプリング」、そしてこれから公開の気鋭のスタジオ「A24」製作でミシェル・ヨー主演の長い原題の新作などなど、特に近年その設定の面白さもあって加速度的に増えているジャンルの一つだと思うんだけど(もちろん劇中のセリフで言及されているように古くは「恋はデジャ・ブ」も。)、今作の面白いのはそのジャンルのシチュエーションを会社員が働く「オフィス」に限定してお話を作り上げてしまった点!

確かに、俺自身会社員としての経験はないが、月曜日から金曜日まで(もっとハードなところだと土日まで!)毎日の激務の中で「あれ?これって同じ毎日の繰り返しじゃね?」って妄想することってあると思うんですよ、多分現実逃避込みで。そこに「タイムループ」という設定を盛り込むって発想が流石「14歳の栞」で初監督ながら評価されている竹林監督の彗眼の凄さよ。

加えて面白いのが、単にタイムループものにオフィスという設定を生かすだけでなく、本作のキャラクターたちがループを脱出するための打開策として用いるのが「上申制度」という現実的な方法なのが面白い!!

上申制度とはその名の通り「上に申し立てる」、目下から目上に意見や提案をするのに用いられる制度らしいんだけど、要は今作のキーパーソンである永久(永久と書いて「とわ」とは読まず「ながひさ」と読む)部長にいきなり下っ端の会社員が「タイムループしてる」って言っても説得力がないから、一つ上の先輩だったり、一つ階級が上の上司から説得していって最終的には永久部長まで辿り着くという、なるほど確かにいきなり入ったばっかの新人が部長に言っても説得力がないわけで、そういう意味では極めて「会社員」らしい方法で新鮮味もありつつ、現実的かつインテリジェンスな方法で、いやこれを思いついただけで作品の面白さとしては勝ちでしょ。

で、最初は主人公朱海の後輩である海外好きの遠藤(長村航希「キャンセル兄ちゃん」)と映画好きの三河悠冴「POP!」)からはじまり、そこから朱海、朱海の先輩の森山(八木光太郎「純朴な梨農家の青年に、トラックが襲いかかる」)、更に先輩の平(髙野春樹「OLD DAYS」)と一つ上の階層をクリアする「オール・ユー・ニード・イズ・キル」)とはまた別の方向性での「ゲーム的面白さ」もありつつ、その中ではじまりとなる「月曜」から、まず朱海の会社員としての日常を描き、その「第1週」で後輩コンビが「キック」となる「鳩の合図」を説明するシステム及び作中のルール説明のうまさだったり、森山パートでのアイドルオタクとしての森山の側面と停電のトラブルを生かした説得シーンの面白さ、そして一番会社員らしい「普通」の大人、平パートでの朱海の「ちょっとしたアクション」の妙など、とにかく上映時間82分という短い中で面白さが尽きないというか加速度的に面白くなっていく「脚本」としての巧さと「チーム団結もの」としての演出がことごとく光る。いや、マジでここら辺は特に面白かった!

そして、やはりそれを演じる俳優陣も有名どころだとキーパーソンの永久部長を演じたマキタスポーツと後半わずかながら登場する「カメラを止めるな!」のしゅはまはるみ(「不倫ウィルス」)くらいなんだけど、みんなうまかった!主人公朱海を演じた円井わんは美人というわけではないけど、その冷めた気だるげな目つきといい、私は他のみんなとは違うという意志を持った上昇志向のキャリアウーマンという内面性を体現していたし、後輩コンビの「情熱派」と「知性派」の凸凹バランス感だったり、平演じる髙野春樹の「仕事できる」上司感だったり、もちろんそれ以上に「めちゃくちゃいそー」なマキタスポーツのギャグは寒いけど「いい人」おじさん感だったりと現実味もありつつ、その中でちゃんと時間の経過と共に一人一人がどんどんと愛着が湧いてくるいいキャラクターになってくるのは、やっぱ俳優さんって知名度はなくても実力ある人はすごいんだなぁって感心するしかなかった。

中でも個人的にお気に入りのキャラクターなのは森山を演じた八木光太郎!ちょっとお笑い芸人の「宮下草彅」の草彅、もしくは俺の友だちのH君に似ている三枚目でぽっちゃりなオタクキャラなんだけど、なんというか全体的に清潔感があるオタクキャラ。後輩に対しても自然な敬語を使ったり、仕事態度もアイドルソングを仕事中ヘッドフォンで聴く、ちょいイタさはありつつも真面目で仕事もできそうだったりと冷静さもあるんだけど、停電して、全部PCのデータ消えた時の「マジかよぉぉー」とか普通に感情出ちゃう感じの人間味だったりと演じた八木さんのいい演技と相まってすごくいいキャラだった。キャリアを見るとそこまでキャリアはないみたいだけど、声もいいし、前野朋哉みたいな若手バイプレーヤーになってほしいなぁ。

あと、後半の鍵を握る事務員?の聖子さん役の島田桃依(「東京戯曲」)のミステリアスな感じや朱海がステップアップを狙う憧れの契約先の「木本事務所の崎野でーす!」でリズミカル&絶妙なウザさを醸す池田良(「よだかの片想い」)、「このご時世」でマスクなしで咳をするという演出一つで無遠慮さがわかる上手さだったりと脇に至るまで本当に上手い人ばっかだった。

で、前半はタイムループとしての面白さを加速度的に上げつつ、意外とあっさりと「ゴール」である永久部長まで辿り着くんだけど(そこでのプレゼンシーンもまた笑える!)そこからまた方向性がガラッと変わってくると今度は永久部長の隠された「過去」と今の職場から憧れの職場へステップアップを図る朱海、その2人のキャラクターにフォーカスを移していく。

どうやら過去に「漫画家」の夢を抱きながら、今の仕事を選ばざるを得なかった部長のために「未完」のデビュー作を完成させることになるんだけど、それまでもタイムループ脱出を図りながらも目の前の仕事に人一倍熱心に取り組んでいた朱海がようやく「チーム」として真に固まり始めていた輪を乱すことで「今の自分」と「なりたかった自分」つまり「夢」のお話になっていく。

タイムループの狭間で戸惑う朱海が「自分の夢」と「仲間」どちらを選ぶかと尋ねた際の部長のセリフがまた良い。

「「自分の夢」って言える人になりたかったなぁ。でも1人でできることって限界があるでしょ。」

確かに働く上でより自分を高められる場所に行こうとすることは間違えていない。ただ「仕事」とは決して1人だけで成立するものではない。そこには多くの仲間がいて、アイデアを出し合い、互いを高め合うことでより良い「成果」を発揮することができる。そして、それは「これからの職場」ではできないかもしれないし、逆に「今ある場所」でも自分次第でいくらでもできるかもしれない。

それはどちらに転ぶかわからない。けど大事なのは「自分」がその中でどうあるべきか。

俺自身、職場という「チーム」の中で過去にいざこざを起こしたこともあったけど、やっぱその中でも「腐らない」ことが大事だったりするんだよなぁ。そうすれば、力を貸してくれる人は必ずいる。そういう意味でも観て良かった作品だった。

そんな感じで前半と後半2つの意味で二面性があって楽しめる内容だったわけだけど、不満点としてはラストがちょっとあっさりしてたってとこかなぁ。ただ、ラストのラスト、作中でも象徴的に扱われていた「鳩」がぶつかった窓にフォーカスを合わせることで「インセプション」を彷彿とさせるちょっとした不穏さを演出しつつ、それでもエンドロール後は微笑ましくオトす感じとか変に波風立てずにきっちり仕上げた感じで大人な仕上がりだった。あと部長の漫画は普通に読みたいw

あと作品外の不満としては副題はいらないっしょ。これに関しては。変に長ったらしい副題をつけたことで飲み込みづらい部分がでちゃってるよ。あと、せっかくこれからの俳優さんたちと監督さんなのに予算がないのかもしれないけどパンフがないのはどうなんだ。ここは宣伝会社さん、もっと考慮して欲しかったなぁ。

まぁ、なにはともあれ、今の自分の立ち位置に思い悩んでいる人がいたら、もっと「刺さる」内容の作品だと思う。それでなくとも変わり種の「庶民派タイムループもの」としてめちゃくちゃいい出来の作品なのでまだ未見の方はオススメです🐦!!
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