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Pearl パールのEyesworthのレビュー・感想・評価

Pearl パール(2022年製作の映画)
4.5
【ブラックスター誕生】

タイ・ウエスト監督×ミア・ゴス主演の『X』の前日譚。ダンサーを夢見る農場娘パールが殺人鬼となった背景を描く。

〈あらすじ〉
孤立した家族の農場で、厳格な母の監視のもと、病気の父の世話をする少女・パール(ミア・ゴス)自分の生活と対象的である映画のような華やかな生活に憧れる彼女は、やがて野望、誘惑、抑圧のすべてを残酷な形でぶつけていく…

〈所感〉
『X』でミア・ゴスは一人二役で演じていたが、この映画ではそのシリアルキラーの老婆の誕生を描く。若さと美貌と恋人に嫉妬するパールはなるほど、こうして生まれたのかと説得力が湧き、もう一度前作を見たくなるという点でとても良質な前日譚だった。確かにこのシリーズは上品なスプラッターという印象だ。乃木坂の中西アルノがベスト顔エンディング映画と太鼓判を押していたが、確かにJOKERのアーサーのような不気味な引き攣った笑顔のラストインパクトが強すぎた。パールは幼い頃から常に、厳しい母のもと労働力としての価値しか認められなかった不運な女性。貧乏で不幸な境遇の家庭で、大切な娘ですら虫ケラ同然の扱いを見ていると同情してしまう。殺しも止むを得ないのでは、と正当化するのも禁じ得ない。パールは常に「スター」という言葉に囚われ、今の自分ではない何者かになることを信じて疑わない。これは若さ故の見誤りだが、夢を持つことはとても素晴らしいことである。しかし、それが叶わなかった時、全てを家庭のせい、友達のせいと他者のせいにしてはいけない。右に行くも左に行くも引き返すことはできない。全ては選んだ自分の責任である。その責任を背負いこむことができなかった故に、彼女はいつまでも有りもしない輝いていた過去だけに執着し、密かに農場で暮らす六等星にしかなれなかったのだろう。映写技師の彼とパールのダンサー友達が不憫すぎるが、あからさまに登場人物が少ないのでなんとなくそうなるだろうなーとは予想がついてしまった。

「腰かけてみるか、とは何事です。腰かけてみるのも、腰かけるのも、結果に於いては同じじゃないか。疑いながら、ためしに右へ曲るのも、信じて断乎として右へ曲るのも、その運命は同じ事です。どっちにしたって引返すことは出来ないんだ。試みたとたんに、あなたの運命がちゃんときめられてしまうのだ。人生には試みなんて、存在しないんだ。やってみるのは、やったのと同じだ。」

『御伽草子「浦島さん」太宰治』より
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