KnightsofOdessa

Other People's Children(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Other People's Children(英題)(2022年製作の映画)
4.5
["人生は短くて長いんだ"] 90点

大傑作。2022年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。レベッカ・ズロトヴスキ長編五作目。同じコンペに監督作品が並んだロシュディ・ゼム(エフィラさんの恋人)とフレデリック・ワイズマン(産婦人科医)が俳優として登場するという、一人でヴェネツィア映画祭やってるみたいな映画。2021年はヴィッキー・クリープスがひたすら忙しかった年だったが、2022年はヴィルジニー・エフィラがその役を担った。アリス・ウィノクール、セルジュ・ボゾン、そして本作品。彼女目当てに『ELLE』観に行ったファンとしてはとても嬉しい。今回のエフィラさんは高校教師である。冒頭では授業中もメールをしながらニヤニヤして、授業が終わったら片付けもそこそこにギターを抱えて恋人アリに会いに行くというラブラブっぷり。エフィラさんは本当に楽しそうで、例えば夜中に発見したアリと元妻の写真を翌日にアリが仕舞っていたのを見てニヤニヤしてるとか、本当に子供みたいに恋をエンジョイしている(エフィラさんが童顔ってのもあるんだろうけどそれ以上に魅力的)。そんな彼女は、アリの連れ子である4歳の娘レイラと親しくなる。エフィラさんはフレデリック・ワイズマン演じる産婦人科医に通って、子供を産める期限に対して敏感になっており、映画は彼女と"他人の子供(Other People's Children)"との関係性を描くことで、"自分の子供が欲しい"という思いの流動性に描いている。レイラとの関係性、或いは不出来な学生ディランとの関係性は他人の子供だから出来る距離と他人の子供だから超えられない距離を同時に示し、その有利性やもどかしさを描き出していく。エフィラさんは幼少期に母親を目の前で亡くして以降、何でも"手遅れ"状態になるまで自分を消してしまうと語っているが、確かにアリとの関係では彼とレイラのことを第一に考えて行動している。彼女のこの優しさは一見"無私"のようにも見えるが、ディランを職員会議で庇う姿などを通して、この優しさの裏にある信念の強さを描き、キャクターに深みを出している。とてもパワフルで、同時に爽やかだ。エフィラさんの映画で初めて当たりを引いたかもしれない。
興味深いのは、ふとした瞬間に挟み込まれるズロトヴスキの思いだ。ユダヤ教の墓参りのシーンでは、教義的に胎児は人間ではないとなりうるようで、堕胎をすることを間接的に認めている宗教だ、と言わせている。また、終盤のシーンでは、謝るアリスに対して"男の代わりに謝るのはやめよう"と言って、ひと悶着ありそうなアリスとの関係を一言で終結させる。こういうスマートさ、とても心地よい。
KnightsofOdessa

KnightsofOdessa