わわう

美と殺戮のすべてのわわうのレビュー・感想・評価

美と殺戮のすべて(2022年製作の映画)
4.0
国立西洋美術館の展示「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」を観に行った流れで、見なくてはと思い、観た。
依存性のある「オキシコンチン」を金儲けのためにばらまき続けた製薬会社とその一族に対する抗議活動のドキュメンタリー。

冒頭の場面は、写真家のナン・ゴールディンたち抗議グループがサックラーの名前を冠した美術館の展示室で行った抗議パフォーマンスから始まる。
ただの「パフォーマンス」ではなく、問題に向き合い戦略を練り、彼らは本気で社会を変えようとしているし、実際に最後には社会を動かしていく。
ナン・ゴールディンほどの成功したアーティストでもキャリアを失うのではと不安を感じているんだ…とその覚悟にハッとさせられた。
活動している人々だけでなく、それに対して時間がかかったとしても応える社会があるということに、胸が熱くなった。
その一方で、観るきっかけになった西美のオープニングで行われた美術館への抗議パフォーマンスの反応を思うと、日本の社会の未熟さなどが情けなく、悲しくなった。

鎮静剤の依存の問題については、海外ドラマとか見てても割と出てくるのでなんとなく存在は知っていたけど、依存症に対する世間の偏見みたいなものはわかったつもりでこれまであまり意識を向けてこなかった気がした。
依存症自体も辛いけれど、依存症になる人は弱い人間だという偏見が世間にあることで、さらに依存性の人やその家族を苦しめるということを改めて知った。実際はただ処方された薬を指示通りに飲んだだけなのに…つらい…残された家族もつらすぎる。。
「誰かの痛みで金儲けすることは許されない」という言葉が印象に残った。

抗議活動と並行して、ナン・ゴールディンの半生についても語られる。
自殺した姉が引用して残したという「悔やみきれない後悔」という言葉を聞いて、姉本人は何を後悔することがあるんだ…と思った。だからあれはきっと自分を自殺に追いやった社会や両親に向けての言葉なんだろうな…と思った。
両親は結局、自分自身の問題に向き合わなかったわけで、見たくないものは見ないというやり方でしか接し方を知らなかったように見えた。この両親の姿勢というか在り方は、もしかしたら今の日本の社会の状況に近いのかもしれないな…と思った。
悲しいけど、そういう姉の存在がナン・ゴールディンの今の活動に繋がっているんだなと思った。

この作品を観た人で観られる人は、より理解が深まるので、ドラマ「DOPESICK」もぜひ観てほしい。
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