サラリーマン岡崎

熊は、いない/ノー・ベアーズのサラリーマン岡崎のレビュー・感想・評価

4.7
パナヒ監督作を観賞したのは2度目だが、
相変わらず、ドキュメンタリー的にフィクションを撮っており、へんな感覚になる。

そして、相変わらず、パナヒ監督は戦っていた。
まず、本国では映画を撮ることを禁止されているパナヒ監督がどう映画を撮っているかが冒頭に映される。
撮影クルーは隣国トルコにいるが、
パナヒ監督はそこにはおらず、イランからリモートで指示しているのだ。
そこまでしてでも、彼はイランを変えたいと思っていることが伝わる。

そして、描かれる2組の男女。
どちらとも自分がいる場所から逃亡したいというところが共通している。
自由に暮らすことができなく、その地のカルチャーがとても色濃く残るその地をなかなか出られない4人。
パナヒ監督も同じだ。

前作の『ある女優の不在』もそうだったが、
イランの社会的な背景を描きながらも、
基本はパナヒ監督の個人の思いがとても際立っているのは本作も同様。

ラスト、ある事実を目撃したパナヒ監督の顔が映され、
そこでエンドロールになる。
映像はエンドロールになるが、音は切り替わらない。
彼がどのような行動をとったかは観客の想像に委ねられる。
それが、彼自身の思いを観客が考えなくてはならない状態にさせる。
やっぱり、社会的でありながら、パーソナルな作品だ。

だからこそ、私たちは感情移入してしまうんだと思う。