秀ポン

ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!の秀ポンのレビュー・感想・評価

4.3
めちゃくちゃ面白かった!!

ザカザカしたラフな線で描かれたコンセプトアートをそのまま動かしてるみたいな映像がマジで良すぎる。
特に薄暗い中での光の演出が最高に映えていた。
人目につかない場所で生きるミュータント達の映画として、薄暗い中での光は1番大切な表現だと思うので、それが魅力的に描けているのはめちゃめちゃデカい。わちゃわちゃ無法図に喋りまくり動きまくる4人とラフな線画もそうだけど、話と表現が綺麗に噛み合っている。

もともとミュータントタートルズを見たことがなく、「下水道に住む4匹の亀がネズミの師匠の元で悪と戦う」っていう基礎知識しかない状態だったけど、話が単独で成立していたし、シンプルだったので楽しめた。
99分とかいう尺最高。

薄暗くてミュータント液やゲロなんかでドロドロベトベトした話がとても良かった。青春は薄暗くてちょっと臭くてベトベトした部室とかで行われるものでもある。
だからこそ、学校のみんなが歓迎してくれるラストはちょっと残念だった。
4人が陽の光の中に出られてよかったね、みたいな終わり方をすることで、薄暗い場所にもあったはずの青春がまるで本来的じゃないものみたいになるのがちょっと嫌だ。

つまりこれは、ミュータントを被差別人種的に描いたことで「みんなに受け入れられて生きる」という終わり方しか社会正義的に許されなくなり、それによって青春の多様性が失われたという不満だ。
しかしこの不満もまた青春は薄暗いものであるべきっていうべき論に縛られている。
4人はそもそも、「人気者になりたいけどその方法が分からない」ティーンエイジャーなのであって、であればあの終わり方もしょうがないかなとは思う。
にしたってこれでは悪者を倒したことで当初求めていたものが100%手に入るっていう「よかったですねー」って感じの話になっちゃうし、なにより「夜の街を人知れず闊歩するの、めちゃめちゃ楽しそうだったのに!」って思ってしまうけど。

それを踏まえた上で自分の理想のラストは
・みんな一瞬こっちに目線をやるけど、すぐに各々さっきまでしていた会話だったりを再開して、そんないつも通りの登校時の風景の中でエイプリルが4人に話しかけにくる。
こんな感じの力の抜けたささやかな終わり方をしてくれたら泣いてたと思う。

不満点はもう一つある。カンフーの扱いについてだ。
作中でスプリンターは、声を当てているジャッキーチェンをリスペクトして、椅子を使って戦ったり、ジャッキー的なアクションをしていた。
基本的にこの映画では、アクションにおけるニンジャ要素をカンフーに仮託している。
これ自体はとても良いと思う。ニンジャを題材にしたコンテンツの最高傑作、NARUTOでもカンフーの要素は数多く取り入れられていたし、(その主題歌「遥か彼方」を歌ってるのはアジアンカンフージェネレーションだし、)ニンジャとカンフーの親和性は既に実証されている。
しかし、であればタートルズの4人には、「序盤にダイジェストで流れた修行シーンで練習していた技を大一番で完全形で繰り出す。」というカンフー映画の醍醐味展開をやって欲しかった。
そしてスプリンターにも、「4人の技を目撃することで、自分の手を離れていく4人の中にもちゃんと自分の教えが息づいていることを感じる。」という胸熱展開をやってほしかった。
声優としてジャッキーチェンをキャスティングしたりと、リスペクトのポーズはとっているものの、制作陣はカンフー自体にはそんなに興味がないんだろうな、とかまで思ってしまう。
(NARUTOではそこら辺をちゃんとやっていて、例えば螺旋丸にまつわる継承のドラマがそうだ)

それはそれとして、初めましての一般人達がラスボス戦でバトンを繋いでいく展開はめちゃめちゃ熱かったし、良い映画だと思った!!!

──その他、細かな感想。

・アクロスザスパイダーバースを見る前にこっちを見ていれば「スパイダーバースの映像をさらに過激に進化させてる!」って驚愕してたんだろうなと思う。
世界観を絵柄で表現したのがこっちで、複数の世界観の差異を絵柄の差異で表現したのが「アクロス〜」だ。
なので、より包括的な表現を先に公開されてしまったことになる。公開順が逆だったなら……と思わなくもないけど、こっちにはこっちで綺麗にまとまった話としての価値があるし、見ていて疲れないのは断然こっち。

・スーパーフライの造形がなんかツボ。ティラノサウルスの前腕みたいに意味なさそうな腕が、多腕のミュータントの造形として面白い。最終形態のアルチンボルド的造形もかなり良い。

・校内の落書きについて、"ニンジャ"タートルズなのにNARUTOじゃなくて進撃の巨人なんだ……と思ったけど、終盤の展開にかかっていた。それに、潜航してからの上陸シーンで「あれ?ゴジラ?」って思って見てたら、本当にゴジラだった。

・様々な悪党達の巣窟に乗り込んでいくシーンが良かった。場所と人が切り替わりながらも、アクション自体は連続してるみたいなダイジェスト演出。

・最終決戦でのヒーローらしい集合シーンがめっちゃカッコよかった。バイクを乗り捨てるアクションすげー好き。

・製作セスローゲン、監督ジェフロウという時点で勝ち確定みたいなところはある。
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