ぶみ

ちひろさんのぶみのレビュー・感想・評価

ちひろさん(2023年製作の映画)
3.5
きっと彼女に、会いたくなる。

安田弘之の同名漫画を、今泉力哉監督、有村架純主演により映像化したドラマ。
海辺の街にあるお弁当屋で働く元風俗嬢ちひろと、彼女の元に集まる人々の姿を描く。
原作は未読。
主人公ちひろを有村、街に住む女子高生を豊島花、シングルマザーを佐久間由衣、その小学生の息子を嶋田鉄太が演じているほか、van、若葉竜也、長澤樹、市川実和子、鈴木慶一、根岸季衣、平田満、リリー・フランキー、風吹ジュンといった老若男女問わず、演技派が登場。
物語は、小さな港街(実際には静岡県焼津市でロケが行われた模様)を舞台として、そこで暮らす様々な人々の日常が綴られていくが、その中心にいるのがちひろ。
小さな街だと、元風俗嬢というだけで、色々な噂があっという間に広がりそうなものだが、それを隠すでもなく、かといって、全てを語るわけでもないという、中々難しい役どころを、有村が自然体とも言える演技で見事に体現している。
他にも、ホームレスを演じた鈴木のヨレ具合が亡き名優、梅津栄のようであったり、目が見えない役を演じた風吹等、ベテラン陣も奮闘する中、広瀬すずにも似た透明感を放っていたのが豊島で、今後の活躍を注目したいところ。
何より、人々にしっかりと焦点を当てつつ、優しさ溢れる光のもと、衝撃的な出来事であっても、何事もなかったかのように描いていく様は、恋愛映画ではなくとも、今泉監督の真骨頂と言えるものであり、テレビの二時間ドラマとは段違いのクオリティを見せつけてくれている。
加えて、ちひろが働く「のこのこ弁当」のお弁当のビジュアルは飯テロと言っても過言ではなく、観終わった後、のり弁や唐揚げ弁当を食べたくなった次第。
特別なことを言うわけでも、饒舌でもなく、ややもすると異端児のような雰囲気があるにもかかわらず、何故か、誘蛾灯のように近寄りたくなる魅力を放つ人が、いつの時代にもいるのだが、その理由の一つがここに示されており、映像を通じて食べることの楽しさや、人々の息遣いが伝わってくるとともに、軽やかかつしなやかに生きるちひろの姿に癒される一作。

相変わらず、無防備な部屋ね。
ぶみ

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