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西部への旅路のrupertのネタバレレビュー・内容・結末

西部への旅路(1944年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ディアナ・ダービンが主演した唯一のカラー作品である「Can't Help Singing(歌わずにはいられない)」の国内盤DVD(10枚組の西部劇BOXに収録。本来ミュージカルBOXで出したほうがいい作品だと思いますが…)が発売されたのでレビューを書いてみました。
「西部への旅路」なんていう味気ない邦題ではあっても、日本語字幕付きで観られるのは嬉しい限りです。

ダービンの映画は、歌唱シーンが物語とは切り離された形で設けられていることの多い“唄入り映画”が大半を占めているのですが、本作の曲は「ショウ・ボート」の作曲家として有名なジェローム・カーン(「雲流るるはてに」でロバート・ウォーカーが演じていましたね)が書いていて、歌唱が物語と融合している本格的なミュージカル映画と言える作品です。

当時ブロードウェイでロジャース&ハマースタインⅡ世の『オクラホマ!』が上演されて大きな話題を呼んだことが本作が作られるきっかけになったそうで、舞台をゴールドラッシュ時代のアメリカに設定した西部劇仕立ての物語が展開していきます。

ジュディ・ガーランドが主演した同じく西部劇スタイルのミュージカル映画「ハーヴェイ・ガールズ」の2年前に作られているということでも先駆的価値のある作品なのですが、かつて経営難に陥っていたユニヴァーサル社を救った救世主にして、ユニヴァーサル社の看板女優であったダービン初のテクニカラー作品(これ以降ダービンのカラー作品が作られることがなかったのが何とも残念)ということで、メジャースタジオのなかでは弱小会社だった当時のユニヴァーサルとしてはかなり豪華な作品に仕上がっています。

ちょうどカリフォルニアで金が発見され、その報告に沸き立つワシントンD.C.からストーリーが始まりますが、ダービンが演じる上院議員の娘キャロラインは、彼女の父親が手を回して、恋人である騎兵隊の中尉ロバートを金鉱のあるカリフォルニアのソノラへ向かわせたことを知ると、すぐさま家を飛び出して、西部を目指す幌馬車隊に参加し、単身ロバートを追いかけることに。

たった1人で西部への旅に出た世間知らずのお嬢様であるキャロラインは、自分のものではない幌馬車を売り付ける詐欺師に引っ掛かって所持金を巻き上げられてしまいます。
その金をカードの勝負で手に入れたイカサマ賭博師ジョニーと所有権を巡って争いになったキャロラインが、やがて一緒の馬車に乗って旅をするうちに互いに惹かれ合っていくというありがちな展開なのですが、ダービンの映画らしく終始明るいコメディタッチで話が進行していくのが良いですね。

歌われる楽曲は、90分程度の作品なので、それほど多くはないものの、どれもしっかりとしたミュージカルナンバーになっています。

まず、キャロラインが二頭立て馬車の手綱を引きながら主題歌である『Can't Help Singing』を朗らかに歌いながら登場するシークエンスは、ダービンの澄み渡った歌声に心踊るとともに、テクニカラーで美しく映し出される姿(本作が撮影された頃は顎まわりに若干ダブつきがあったりはするのですが…)にも目を惹かれてしまいます。

また、キャロラインがジョニーと初めて触れあうのが野外に設けられた公衆浴場で、個々の浴槽が板塀で仕切られてお互いの顔が見えない中、泡風呂に入りながらキャロラインが『Can't Help Singing』を歌っていると、それに呼応するように、隣の浴槽に入っているジョニーが歌い始めて2人のデュエットになるシチュエーションがユニークで面白い。
ジョニーを演じているロバート・ペイジがダービンを相手に堂々とした歌いっぷりを見せているのも印象的。

さらに、キャロラインが1人木々の間をそぞろ歩きながら歌う『Any Moment Now』は、ロケーションの効果が最大限に発揮されたナンバーで、開けた場所に出ると一面に広がっている峡谷の大パノラマ(ユタ州でのロケ)をバックに熱唱するクライマックスシーンは、「サウンド・オブ・ミュージック」のオープニングにおいてジュリー・アンドリュースが高原で歌うシークエンスに匹敵するくらいの雄大さが感じられる名場面と言える素晴らしさです。

そして、2人の気持ちが高まった場面で披露されるアカデミー歌曲賞にノミネートされた『More and More』は、ジョニーに恋心を抱くキャロラインが大人のムードを出して情感豊かに歌う姿が魅力的。

続いて、カリフォルニアに着いてからキャロラインとジョニーが大勢の人々のコーラスとともに歌う『Californ-i-ay』も華やかさ満載。

フィナーレには、ダービンが豪華絢爛な衣装(それも2着!)に身を包んで歌うメドレーソングがあり、ユニヴァーサル社のトップスターにふさわしいゴージャスさで、目を惹くファイナルナンバーになっています。

ロバート・ペイジは、ダービンとのデュエットに最もその良さが出ていますが、ダービンの相手役としての存在感があって男性的魅力も感じられる好演。

キャロラインが追いかける恋人ロバートを演じたデヴィッド・ブルースは、ほんの端役だった「クリスマスの休暇」からは出番が多くなってはいるものの、本作では、所詮父親の地位に惹かれて娘に近づいている当て馬キャラに過ぎず、彼は、翌年作られるコメディミステリー「Lady on a Train」で、偶然殺人を目撃してしまった令嬢(ダービン)に散々振り回されるミステリー作家の役でダービンと本格的に共演を果たして、楽しい演技を見せてくれることになります。

ほかにも、ロシア人の間の抜けた泥棒コンビを演じたエイキム・タミロフとレオニード・キンスキーが2人組のお笑い芸人なみの愉快なコメディリリーフで楽しませてくれます。
キャロラインが持参したでっかいトランクに目を付け、2人でそのトランクを盗んで蓋を開けようとしては失敗を繰り返し、右往左往するあたりのとぼけた演技が最高!

娘と全く同じように詐欺師に騙される上院議員の父(レイ・コリンズ)もいい味を出しています。

ダービンも、歌唱シーンの素晴らしさはもちろんのこと、仮病を使ったり、咄嗟に口から出まかせを言ってしまってそのウソに振り回されることになったり、ジョニーに思わずイタズラをしてしまったりするようなお茶目なコメディエンヌぶりが板についていますね。

いつまでも少女時代を引きずったような役ばかりなのが本人としては不満だったようですが、「クリスマスの休暇」みたいな役よりも、こういう明朗快活で親しみやすいキャラクターのほうが遥かに素敵で、たとえストーリーがありきたりなものであっても楽しく鑑賞できますし、加えてテクニカラーの美しさとロケーションの魅力をたっぷりと堪能できる作品になっています。

〈米盤Blu-rayより画質は落ちますが、フィルム傷などはないので、廉価盤ソフトでも十分鑑賞する価値があると思います〉
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