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ママは独身のrupertのネタバレレビュー・内容・結末

ママは独身(1939年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ドナルドダックのおもちゃがいっぱい!

ディズニーはブエナ・ビスタを設立するまでは、オズワルドを奪われてしまうなど、配給会社に泣かされることが多々あったんですよね。
でも、本作が製作された1939年の頃は、RKOがディズニー映画の配給会社だったおかげで同じRKO作品である本作の中でこんな素敵な“共演”が実現していたのはディズニーファンにとっては嬉しい限り。
インテリアとして賑わいを出しているだけではなく、ラスト近くで、ドナルドダックのおもちゃがストーリーに絡むとてもいい仕事をしてくれています。クワックワッ♪(クラレンス“ダッキー”ナッシュの声をここで聴くことができるとは!)
エンドクレジットに、Donald Duck……HIMSELFとしっかり書かれているのも印象深いです。

ドロシー・アーズナー監督のRKO作品「恋に踊る」にも、マスコットとして“牡牛のフェルディナンド”(38年のアカデミー短編アニメ賞授賞作のキャラクター)が登場してましたけど、それと並んで記憶に残るディズニーとのコラボではないでしょうか。

クリスマスを控えて、このドナルドのおもちゃをたくさん販売しているデパートのおもちゃ売り場の店員ポリー。
養護施設の玄関先に赤ちゃんが捨てられた現場に遭遇し、その子を抱いて施設に入ると、彼女がその子の母親と誤解され、自分の産んだ子ではない証明ができないまま、周りでどんどん事が進行していってしまうという面白さ。

主人公が誤解がもとでのっぴきならない状況に追い込まれてしまうのは、本作の脚本を書いているノーマン・クラスナの得意とするところで、こういったスタイルのシチュエーションコメディとしてはとても上手くつくられているなと思いました。

クラスナの作品では、大抵自分が嘘を吐いたところからその誤解が生まれてしまうことが多いのですが、本作では、そういった嘘がない分、主人公に共感を持ちやすくもなっています。

また、原作を書いているのが西部劇の秀作「砂塵」やディアナ・ダービン全盛期の「アヴェ・マリア」や「庭の千草」などの脚本を手掛け、のちにダービン映画のプロデューサー&ダービンの二度目の夫となったフェリックス・ジャクソン。

ヒロインのポリーを演じているのは、RKOでのアステアとの最後のコンビ作「カッスル夫妻」を撮り終えたばかりのジンジャー・ロジャースで、本作でも同僚とダンスコンテストに出場する場面があるのですが、チラッと映るジンジャーがキレ味のあるダンスを披露してくれているのがまた嬉しい。
次第に赤ちゃんに情が移っていくあたりの演技も見事です。

ジンジャーの相手役はデヴィッド・ニーヴン。
ポリーの勤めるデパートのオーナーの御曹司で、赤ちゃんを巡る騒動に巻き込まれる1人ですが、紳士的な人柄が本作の雰囲気にマッチしていて、契約中のゴールドウィンでの扱いの悪さ(本作と同じ年の「嵐ヶ丘」など)に比べて、持ち味が生かされた演技が光ってます。

さらに、赤ちゃんが自分の孫だと思い込んでしまうデパートのオーナー、マーリン氏(ニーヴンの父親)役のチャールズ・コバーンもいい感じの好々爺演技。

ページがくっ付いた育児書のくだりやポリーがスウェーデン人に成り済まして交わされる珍会話など、楽しく笑える場面が詰まっている一方、自分の産んだ子供であるのにネグレクトや幼児虐待といった事件が頻発する現代にあって、公園で他の母親と自分の子供ではない赤ちゃんの成長を巡ってマウントを取り合うポリーや、誤解がベースにあるとはいえ、赤ちゃんを見て思わず涙するマーリン氏のように、身寄りのない赤ちゃんに関わる人たちの姿を見ていると、ほっこりして癒される気持ちになる作品でもありました。

本作のオリジナルであるヘルマン・コステルリッツ(ヘンリー・コスター)監督の「人形の母」は未見なので、機会があったら是非観てみたいです。
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