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キスする強盗のrupertのネタバレレビュー・内容・結末

キスする強盗(1948年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

ジョー・パスターナックが製作した日本では劇場未公開のMGMミュージカルをパブリックドメインのDVDで鑑賞しました。

アーサー・フリード、ジャック・カミングスと並んでMGMミュージカルの三大プロデューサーの1人と言われるパスターナックは、ユニヴァーサル映画時代にはディアナ・ダービンが主演した初期の10本を手掛けてヒットを連発し、ユニヴァーサル社の経営危機を救った立役者。

その後MGMに移籍してからはダービンと同様、ソプラノで歌えるキャスリン・グレイスンやジェーン・パウエルの出演作を多く手掛けて、幅広い世代に向けて大衆的な人気を得るような作品づくりをしていたので、本作も全体的にかなりホンワカとしたムード。
スペイン統治時代のカリフォルニアが舞台となっていますが、ドンパチをやるような荒っぽいシーンはほとんどありません(西部劇BOXに収録されていますが、一般的にイメージされる西部劇らしい西部劇ではないです)。

主演のフランク・シナトラも以前パスターナックが製作した「錨を上げて」のときと同様、女性に奥手の優男といった感じの役柄。
彼が演じるリカルドという青年が亡くなった父親が遺した宿屋の経営をするつもりでやってきたら、そこは宿屋を隠れ蓑にして盗賊を行っている一味の住みかだったということが分かりさあ大変!

お守り役のチコ(J・キャロル・ナイシュ)が父親そっくりの精悍な男が現れるのを期待していたら、頼りなさそうな軟弱な青年でガッカリするという冒頭のシークエンスは、パスターナックがユニヴァーサル時代に手掛けた古典的な名作西部劇「砂塵」におけるチャールズ・ウィニンジャーとジェームズ・スチュアートを思い起こさせるようなシチュエーションです。

金目の物を奪う際に女性にいつもキスをする盗賊だった父親がキスで相手をメロメロにしていて、被害にあう女性たちも彼からロマンチックなキスをされることに憧れを抱いているというのが今では相当男性優位な古めかしさを感じるのですが、おっとりとしたミュージカル作品なので、それほど気にならずに鑑賞できます。

リカルドは父親の後を継いで盗賊のまねごとをしてみるものの、ターゲットとなる馬車に乗っていた知事の娘テレサ(キャスリン・グレイスン)に一目惚れしても照れてキスができない。
一方、テレサのほうはキスをしてくれないのは自分に魅力がないから?と思い悩んでしまう。

パスターナック作品らしく派手なミュージカルナンバーではなく落ち着いた歌唱がメインで、シナトラがバルコニーの下でギターをつま弾きながらセレナーデを歌って愛を語るような場面がクラシカルな味になっています。
また、キャスリンの"Love Is Where You Find It" の歌唱などもなかなか魅力的なのですが、2人の歌唱シーンにこれといった工夫がないので、やはり平凡な印象は否めません。

それでも愛嬌があって可愛い若き日のシナトラとちょっと勝ち気ながらもツンデレっぽいところのあるキャスリンのコンビは微笑ましく観ていられます。

後半になると、スペイン国王の命を受けてやってきた徴税官と将軍に成り済まして、知事の館に乗り込んでいくリカルドとチコ。
ダニー・ケイが主演した「検察官閣下」みたいな珍騒動が巻き起こりそうなところですが、こちらも取り立てて印象に残るような場面がありません。

ただ、本作には、ミュージカルシークエンスに大きな目玉があります。
大がかりで野心的なミュージカルナンバーで魅せるフリード作品と比べるとこぢんまりしているパスターナック作品でよく行われるテコ入れ演目なのですが、客演のリカルド・モンタルバン&アン・ミラー&シド・チャリシーの3人による目の覚めるような情熱的なダンスナンバー"Dance of Fury"が観ごたえたっぷり。

ミラーとチャリシーがモンタルバンを取り合って激しく角付き合わせるキャットファイトの様子を華麗なダンスで表現するという趣向で、女性2人のきらびやかな衣裳がテクニカラーによって際立っている上にキレキレのダンスが何とも魅力的。その上モンタルバンのラテン男の色気が加わってゴージャスな印象を受けます。

このシークエンスは「ザッツ・エンタテインメントPART3」にも収録されていますがカットされているため、フルサイズで観ることができるのが嬉しいところですが、主演2人と無関係なシークエンスが見せ場をさらってしまっているのが何とも残念。
事実、興行成績も全く振るわず記録的な大赤字だったそうで、凡作・駄作と評されても仕方ないのかもしれませんね。
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