SPNminaco

ファントム・オブ・ジ・オープン 夢追う男のSPNminacoのレビュー・感想・評価

-
1976年ジ・オープンに出場しちゃったゴルフ初心者の中年モーリス・フリットクロフト。それはサッチャリズムの渦中において、叶うはずのない夢物語。同じ労働者階級はささやかな希望に興奮し、特権階級は嘲笑しながら慌てふためく。
もちろん結果は散々だが、それでもモーリスは敗北に屈しない。全英ゴルフ協会から資格なしと追い出され、造船所から切り捨てられた彼のような労働者は、既に日常がリンクスの強風、バンカーの砂地獄のようなもの。夢も希望もない英国社会に、モーリスは夢を見て何が悪いと挑み続ける。その手段がモンティ・パイソンみたいにバカバカしいほどのマリーシア(貧者の武器こと小さな悪知恵)であることが痛快だ。そして遂に、オスカー・ワイルド曰く「ドブから見た星」、モーリス曰く「キャビアとシャンパンとダイヤ」を手に入れる。
若い頃から中年~老年までモーリスを演じるのが、怪優で名優マーク・ライランス。ほんと役の振り幅激しい&正体不明なひと!おかげで朴訥飄々とした愛嬌と同時に、本気で夢を信じることができるほど浮世離れした不思議なキャラクターになっている。彼を信じ応援する妻はサリー・ホーキンズで、こちらもまるでパディントンと暮らしてるみたいなファンタジー感。
一方で、ワイルドや外国語の教養があっても(妻もかつて劇団員だった)、ゴルフを練習してダンスが上手くても、「役に立たない」とされるのが労働者階級。反骨のユーモアとペーソス、お伽噺と現実、そのバランスが英国映画らしい。てか、ディスコダンサーの双子息子とか偽名変装とか、さすがに盛ったと思えるエピソードも、エンドロールで証拠映像が出てきて笑った。まじで実話かよ!
モーリスが偶然観たTVで啓示を受けたのが、トム・ワトソンの優勝場面(劇中でも後の名選手らしき人物がモーリスと絡んだりする)。思えばワトソンのキャリアもまさかの史上最年長優勝争いをしたりと、夢みたいにドラマティックだった。夢は伝染する。
SPNminaco

SPNminaco