一色町民

少女は卒業しないの一色町民のレビュー・感想・評価

少女は卒業しない(2023年製作の映画)
5.0
 朝井リョウの原作は未読です。
 原作がいいのかもしれませんが脚本が実に事細かく丁寧に書かれていて、シーンの入れ替えのリズムも抜群で、何度も涙する上に、懐かしい一瞬を思い出してたまらない切なさに浸ってしまいました。さらに、まだまだ新人とっ言っていい4人の女優陣も素晴らしかった。
 同じく朝井リョウの原作「桐島、部活やめるってよ」が青春映画の金字塔だというのに異論はないですが、本作のキャッチコピー「新たな青春恋愛映画の金字塔、誕生!」というのは大げさではないです。

 まず、廃校が決まっている校舎という空間、さらに卒業までの2日間に限定。地方の町ゆえの将来の選択といった設定が、映像とドラマの両面で生かされています。そして何より〝卒業〟を誰にも訪れる人生の節目と捉え、時間の経過とともに特別な感情を表出する若手女優たちの演技が瑞々しいです。

 4組の青春を描いてますが、構成が凄く上手いんですよね。本作の上映時間はちょうど2時間で、中心に卒業とそこに付随する答辞のギミックがあって、15分でそれを見せておいて、1時間で少女4人の抱えている問題・状況を提示して、45分でラストに向けてまとめ上げています。その過程で4組がバラバラに動くから、さっきまで泣きそうだったのに微笑ましくなったり、苦しくなったり、“えっ!?”ってなったり、観ている我々の情緒を乱してきます(ホメてます)。

 片思いの切なさ、彼の本当の凄さを私だけが知っているという思い、教師への密かな恋心、進路によって離れ離れになる彼氏への気持ち。そして決定的な別れ....。
どこか懐かしさを感じさせるタッチで、教室、実習室、音楽室、屋上、階段の踊り場、いつもの帰り道、等々を切り取り、ありふれているからこそ特別な時間を描き出す。
 引きのカメラで長回しでとらえられた少女たちの息吹や、横移動で映し出された少女たちの動き、少女たちが移動する廊下の窓の向こうに見える春色の景色などが、まるでドキュメンタリーを観るかのようにリアルに響いてくるのです。
 
 進路で揉めて別れ話の寺田君(宇佐卓真)と後藤さん(小野莉奈)はやっぱりラストの笑ってバイバイからの泣きそう笑顔がもう最高で、本作のテーマ「卒業」を一番体現した顔になっていたと思います。
 図書室が居場所になっている作田さん(中井友望)と坂口先生(藤原季節)。藤原季節のイケメン先生っぷりは、ちょっと役得でズルイと思わないでもないですが、中井友望の独特の存在感、ちょっと舌足らずな話し方とか、居場所のない少女ぽくていいです。
 軽音部の部員皆んなそれぞれに特徴があって良かったですし、森崎役の佐藤緋美は「ケイコ 目を澄ませて」の弟役に続いて存在感ありましたね。歌のうまさにビックリしました。さすが浅野忠信とCHARAの血を引いていると実感。役者とは別に音楽活動もやっているらしいです。
 神田さん(小宮山莉渚)と森崎の自転車二人乗りシーンが凄く好きです。二人が土手沿いの道を横移動するのをカメラも横移動して捉えるのですが、「写真撮ろ!」となって自転車を降りるから、勢いカメラが慣性で停止できず画面が二人を追い越しちゃう。これが返って、“青春は止まらない”感があって凄くいい(笑)。
 あっそれから、森崎が歌っている時、小宮山さんが「思い知ったか」というセリフがあるのですよ、これまた絶品でした。
 まなみを演じた河合優実はもう、圧倒的でした。恋する乙女みたいな演技もするし、大人びた表情も。上手すぎる! 彼女の答辞のシーンが飛ばされた瞬間、ああ、これを最後に持ってきて彼女の映画にするんだ、と思いました。それは間違ってはいなかったですが、想像をはるかに超えてきましたね。
 まなみの彼氏・駿を演じた窪塚愛流は、可もなく不可もなしでしたが、時々いい表情をみせるのは父親の窪塚洋介ゆずりですかね。

 ちょっとネタバレぎみですが、少女4人をスケッチしていくことに終始するのかと思っていると、終盤、まなみが抱えていた大きな喪失感が示されます。これは本当に衝撃的でした。原作、朝井リョウのギミック、脚本の構成にやられました。佐藤は山城の作って来た弁当に入っている国旗を部屋の隅に貼って、国連みたいにしたいと言っている。そして鼻歌である曲をいつも歌う。放課後時々聞こえて来たけれど何の歌か知らないのだと言う。これが伏線となっていて、非常によく効いていて巧いです。

 物語の最後の最後、エンドクレジットの前に本作のタイトル「少女は卒業しない」が画面いっぱいにドーンと出ます。本作のパンフに中川監督のコメントが載っていて、卒業への拒否感、受け入れたくないけど受け入れなきゃいけない“別れ”を踏まえて成長していく....。映像だけで終わるのではなく、拒否感を表したタイトルを出すことでその抵抗感をにおわせたと語っています。それは、大成功だと思います。
 “卒業する”ということはすなわち今の生活とは違う人生が始まること。友だちや恋人との別れも意味している。それでも卒業の日はやって来ます。まさに旅立ちの時。だからこそ、高校時代というものは長い人生のわずかな時間にもかかわらず、特別な時として人々の心に刻まれるのでしょう。
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