シミステツ

パリタクシーのシミステツのネタバレレビュー・内容・結末

パリタクシー(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

金なし休みなし、人生最大の危機を迎えていたパリのタクシー運転手シャルルが、終活中の92歳マダム・マドレーヌをタクシーに乗せ、人生を大きくドライブさせていく物語。

指定された道を通らないプロとしてのこだわり、免停寸前で金もない、冒頭はシャルルの置かれた状況やキャラクターが簡潔に伝わるよいシークエンスだった。

マドレーヌを乗せてパリの反対側まで。
「ねえ、寄り道してみない?」

道中マドレーヌの思い出話へと移っていく。16歳に訪れたファーストキスの話、燃え上がるような恋、それでも二度とふたたび会うことのなかった恋。劇場という小宇宙。人生はなんて豊かで濃厚で、色鮮やかなのか。目の前のよしなしごとに忙殺されていても、人生という広がりを感じられる。生きていること、生きてきたことはもっと誇るべきだとさえ思う。

1日12時間休みは週1、家族を養えるかという不安を抱えたシャルルの内面の吐露も2人の関係を近づける良い展開。マドレーヌ側からもDVの夫からの暴力に悩みながら必死に息子・マチューを育て上げた過去が描写されるなど、山あり谷ありの人生の奥行き、シリアスなアクセントも加味される。気品ある淑女然としていながら夫に睡眠薬を飲ませバーナーで性器を焼き切るというまさかの超重エピソードがしれっと出てくる距離感の作り方もフランス映画らしい。ただの悪行、夫への復讐という単純な話に落とさずに1950年代の女性の自由についても批判的であることで結果的にきちんとマドレーヌが正当化されている(=観客としてマドレーヌに寄り添える状態)のも落とし所が上手い。

シャルルの違反切符が切られるというピンチもストーリーにあって然るべきだしマドレーヌがその危機を切り抜ける後半のハレ作り、からのミュージックスタート、タクシー主観で街を見上げるシークエンス、お手本、完璧ですね。ラスト30分が一気に楽しみになる。

病院に着いたマドレーヌ。支払いはまた会った時に。切符を切られそうになった時についた心臓病という嘘は嘘じゃなかったんだね。身寄りがないマドレーヌの遺産がシャルルにいくという結末は何となく読めた中で、そうなってほしくないとも思ったけど、お金に終始しなくて(101万ユーロだけど)2人の中にある確かな愛情を着地として見せてくれたのはギリよかった。

「美しき旅路」