かなり悪いオヤジ

パリタクシーのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

パリタクシー(2022年製作の映画)
3.4
元有名歌手のおばあちゃんタレントがコメディアン俳優の運転するタクシーに乗って、パリを東から西へと横断するある1日の物語。その昔パリをナチスから解放してくれたアメリカ人兵士と恋に落ちたばあちゃんは子供を身籠るが、妻子のあった男はアメリカに帰国してしまう。その後に知り合ったフランス男はとんでもないドメバイ男で...自宅からパリの端っこにある介護施設へ向かう道すがら、ばあちゃんの思い出の場所に立ち寄るようお願いされる運ちゃん。

要するに『ドライビングMissデイジー』の体裁を借りたフェミニズム映画なのである。とにかく、若い時のばあちゃんと同棲生活を始めるフランス男がとんでもない下衆やろうで、戦後50年代は現代のフランスのように簡単には離婚できない時代であり、何をするにせよ亭主の許可がなくては女性は何もできない弱い立場にあったのである。そんなばあちゃんの思い出話が車中で語られていくうちに、無口な運転手が心を開き改心するといったシナリオである。

劇中92歳と語っていたばあちゃんが、介護施設についたと同時にあの世にも旅立ってしまうのかなぁと思いきや、あけてビックリのサプライズが最後に待っている。道を譲ろうとしない乗用車、バイクやスクーターはサイドミラーにぶつかったって謝りもしない、ばあちゃんの🚺️のため道を塞ごうものならクラクションの嵐...ここパリも日本と同様に“怒り”で溢れている場所なのである。「長生きしたけりゃ笑いなさい」とたしなめられる運ちゃんだが、ばあちゃんの過酷な昔話を聞かされているうちに車内はすっかりしんみりムードに包まれてしまうのである。

大学を中退し戦場カメラマンとなってベトナムで死んだ息子、そして心から愛するアメリカ人兵士の恋人を永久に失ったばあちゃんは、生きているうちにもっと楽しい思い出を作らなかったことを死ぬほど後悔していたのではないだろうか。(執行猶予中で)パリを出られなかった女は、パリを出ようとしない男にこう告げるのである。「遠い場所へ旅に出なさい」たとえ、自分ではコントロールできない困難が未来に待ち受けているにせよ、最短距離で安全に目的地に向かうよりも実り大き人生になること確実なのだから。