かなり悪いオヤジ

無聲 The Silent Forestのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

無聲 The Silent Forest(2020年製作の映画)
4.0
ショッキングな映画である。台湾という国も中国に苛められて、どうも日本以上に病んでいるようだ。その昔に観た、知的障害者によるレイプ問題をあつかった韓国人巨匠イ・チャンドン監督『オアシス』以上のインパクト。台湾の聾唖学校を舞台にした性的集団暴行は、実際に起こった事件だというから驚きである。

普段人前では無邪気にじゃれあっていた子供たちが、突如として獣に変身するシーンのそら恐ろしさといったら筆舌に尽くしがたい。障碍者の心は健常者よりも純粋だった時代は、どうもはるか遠い昔に終わってしまっていたようだ。ストレスのたまった優等生の指示とはいえ、この聾唖の子供たち、理性のハードルがきわめて低いと言わざるをえないだろう。

男子生徒たちにまわされる痩せぎすの少女ベイベイもまた、更なる報復を恐れて“沈黙”を貫くのである。そんなベイベイを見るに見かねた転校生が遅ればせながら、味方になってくれそうな先生にチクってはじめて事が明るみに出るのである。当然黙ってはいない優等生。一番年少の男子生徒の○○○をしゃぶればベイベイには手を出さないと転校生と約束するのだが.....

集団レイプからさらには幼児性愛まで、いくら聾唖者だからといって、ここまでくれば立派な犯罪者集団である。自分達は健常者ではないから許されて当然、という甘えが彼らのどこかにあったのではないだろうか。もちろん真面目な生徒たちも中にはいたのだろうが、管理すべき教師が見て見ぬふりをしてきたことが問題を大きくした根本原因であろう。

映画は自傷癖のある優等生の過去にスポットをあて、台湾という国が抱える闇を照らしだそうとする。私はこの“声をあげられない”少年少女たちが、かつて中国の同化政策にさらされながら、中国に睨まれて言いたいたいことも自由に言うことが憚られる、台湾の国情に非常によく似ていると思ったのだが、皆さんはどういう感想をお持ちになったのだろう。

官公庁からたんまりと補助金をもらっている以上、多少の問題教師や問題生徒には目をつむり、なるべく波風をたてないよう平静を装う、それが黙りを決め込もうとした校長以下教師たちの本音ではなかったのだろうか。生徒の教育よりもまずは“金”であり、そんな教師たちの、いや国家の腐敗ぶりを見透かした生徒たちが何かしらやらかすことはもはや必然だったのだろう。