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ブルー きみは大丈夫のhasisiのレビュー・感想・評価

ブルー きみは大丈夫(2024年製作の映画)
3.8
米国。大西洋岸中部にあるニューヨーク州。
12才のビーは、祖母が暮らす古いアパートに引っ越してきた。
数年前に母をガンで亡くし、現在は父が心臓の手術を控えて入院している。
祖母は、ビーを元気づけようと、むかし使っていた画材道具を出してくるか、
「もうお絵かきはしない」
と断った。

監督・脚本は、ジョン・クラシンスキー。
2024年に公開されたファンタジー・ドラメディ映画です。

【主な登場人物】🎩🌹
[カルヴィン]先輩。
[ジェレミー]ぽっちゃり。
[ジャネット]看護師。
[パパ]入院中。
[ビー]主人公。
[ベンジャミン]入院少年。
[マーガレット]祖母。

💜IF。
[アイス]コップ。
[アリー]ワニ。
[アンドロメダ3世]幽霊。
[ヴァイオラ]サングラス。
[オクト・キャット]猫。
[ガミー・ベア]赤グミ。
[コスモ]探偵。
[サニー]花人間。
[Sドック]Sマン。
[スペースマン]宇宙飛行士。
[スライムボール]緑。
[石鹸バブル]シャボン玉。
[バナナ]ばなな。
[美術教師]木人形。
[ブルー]巨大もふもふ紫。
[ブロッサム]人形虫。
[MG・マウス]奇術師。
[マシュマロウ]焼き菓子。
[ユニ]一角獣。
[ルイス]熊。
[ロボット]ロボット。

【概要から感想へ】🏥🪢
原題は『IF』
イマジナリーフレンドの略称で、想像上の友人を指します。
(ぬいぐるみと話すような)

クラシンスキー監督は、1979年生まれ。マサチューセッツ州出身の男性。
俳優として活躍。
2009年に、コメディ映画で長編監督デビュー。

2018年に始まった、音に反応する怪物と戦う家族を描いたホラー『クワイエット・プレイス』シリーズが代表作に。
作品全体に流れる孤独感は、本作に通じるものがある。

🧸〈序盤〉🤓🩼
IFの視点とIFに向けられる視点。
カメラワークが抜群。
「えー、男性監督で女の子主人公~」を忘れさせる、自分がIFになったような没入感。

主人公のビーが頑な(かたくな)。
イメージ世界を拒絶し、溜めを作る担当で、鬱屈している。
一応、便宜上は将来への不安と絡めてある。
何に対しても否定的だけど、挨拶だけはちゃんとする、でわたしの周りにも大勢いるタイプ。

ネタの数も少なくて単調。
からからに乾いた男性監督作品。
クラシックで重厚な撮影セットを含めて、80年代の冒険ものを見ている気分に。

驚かせる、悪戯する、などがネタの共通点で、子供を楽しませるための要素だろう。
大人としては、ぜんぜん求めていないので冷めた目線に。

🧸〈中盤〉🐉🏰
里親探し。
携帯の普及で妖怪が消えかけている、のような物語。
縦軸がはっきりして、冒険心を刺激してわくわくするけど、
これも結局、現代人の否定だし、余計なお世話なんだよなぁ。
IF存続の危機です、と不安をあおられて、業界にプラスに働くと思えない。

考えてみれば、この妖怪VFX映画って。子供向けを中心に日本でも定期的に作られていて、興味をそそるジャンルなので大抵見ているけど、
『DESTINY 鎌倉ものがたり』くらいしか、面白かった記憶がない……。
けっきょく、CGキャラを想定して俳優が話しかけるだけなので、
鬼門なのかもしれない。

IFとは、忘れると消えて、思い出すと現れる幽霊のような存在。どこかで待機していて、人間のパートナーは置き換え可能、と表現されると興ざめする。もっと幻想的なものだ。
「まあ、でも面白いよな」
彼らは一体どこからやって来るのだろう? は誰もが1度は考える疑問。
最初は、きっと天国のような場所で暮らしていて、そこから物質世界にやって来て、我々の前に姿を現すのだろう、と考えるから、
それを映像化するのは、しごく自然な気がする。

アイデアの洪水。
中弛みしないための工夫だろう、
1幕と打って変わって、凄まじい物量作戦に。
本当に監督の夢の中に入ったかのよう。
ギャップを作り出すために、1幕で引き算していた可能性が高い。

🧸〈終盤〉🥐☕
根本問題の解決に向けて。
自分で考えた設定を否定する。
ちゃんと否定だけで物語が転がってゆくのに驚き。
否定も宇宙を構成している要素の1つ。
否定してはいけない、と否定をひていする人間は哲学の途上。村八分の率先であり、ナンセンスだ。

予想とは違う方向へと進んでゆく物語。
違和感が払拭されて、すっきり。本来の形を取り戻してゆく。
伏線回収も量が多くて畳みかけてくる。
事前情報で得た悪いイメージよりは、よく出来ていた。

【映画を振り返って】🌈🦄
IFのルック。
1幕は、インパクト重視と、3次元に無理やり連れて来られた2次元キャラで、デザインへの疑問が付きまとって、集中力を削いでくる。
むしろホラー。

キャラは時間をかけて磨かれてゆくもの。単体作品で、オリジナルキャラを数十体制作する大変さが伝わってくる。
2幕に入るとメインキャラが影をひそめて、カメラは被写体から離れる。IFが集団化するので環境に馴染んでくる。

3幕に入ると、ぱっとしないキャラデザの真相が明らかとなり、
支持率の高さも納得の、実力のある監督なんだな、と分かった。
よくやっている方なのかもしれない。

🖍️絵作り重視。
『クワイエット・プレイス』も台詞を消してあったように、イメージカットから入る監督だと分かった。
わたしは「監督がどんな経験をしてきたのか?」の中身の部分を求めているので、興味をそそらない最大の要因な気がする。

孤独は深みのある人間関係と相性が悪い。
人間ドラマの道に進むと、延々と哲学を喋っているような、1人しかこの世界にいないような、寂しいものになりがち。
それだったら、クラシンスキー監督のようにジャンル映画やコメディ。ルックの魅力に振るのも、個性を発揮するための選択肢の1つ。

🫂IFを助けたい。
IFは創作の原点であり、自己救済の源。
複数のIFとの会話が脚本であり、ディペートの基礎であり、教師と生徒に別れた学力アップの秘訣でもある。

IFの深みと量で脚本家の実力は決まる。
たとえば、近年の大河ドラマの中でも群を抜いてお気に入りの『光る君へ』のキャラのバリエーションの豊富さと、イベントの面白さ。内面の深さは、もはや神レベル。
(吉高由里子は神に選ばれし子)
大量のメモ。人生経験と並行して、IFとの話し合いなくして物語は成立しない。

本作の場合は、死ぬまでにIFを映画にしておく必要があると感じたのだろう、監督にとって重要なテーマを、真っすぐ描いてある。
映画的な面白さより、伝えたいメッセージを優先。導きだされる答えには説得力があった。
IFを軽んじることなかれ。
心の友はいつでも、呼び出されるのを待っている。
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